国会限定! 吉野家の「牛重」1200円は高いのか、安いのか?:公認会計士まーやんの「ロジカるつぼ」(2/2 ページ)
吉野家が国会議事堂内限定で、1200円の「牛重」を販売して話題になっています。この牛重は、国会議員をはじめ「国会通行証」を持っていなければ食べることが出来ません。これに対して「国会議員だけが特別扱い」という批判や意見が出ていますが――。確かにこの「牛重」は、いろいろな意味で特別なのです。
で、牛重(1200円)の原価は?
先に書いたとおり、牛丼と牛重の違いは「牛肉」が最たるもののようです。肉を米国牛から和牛に変えると、原価はどう変わるのでしょうか?
和牛と言ってもピンからキリまでありますが、最高級「A5」ランクの場合、牛重で用いているロース肉の卸値は、1キログラムあたり約3500円。ちなみに牛丼で使っている米国牛のものは1キログラムあたり約500円です。
牛丼1杯に必要になる牛肉はおよそ70グラムですから、牛肉に由来する価格差はせいぜい210円、ということになります。
だとすると、先ほど書いた「1杯あたり180円の粗利」を残そうとして価格を設定する場合、「牛重」は牛丼の価格に先ほどの価格差210円を足して、490円で売れば採算が取れるという計算が成り立ちます。
お新香や味噌汁をサービスで付けていることを考えても、せいぜい550円が妥当な価格だと思われます。
しかし、実際には1200円――この差は一体何なのでしょう?
価格に影響を与えているのは「味」以外の要素
実は、この価格の差は「回転率」が大きな影響を与えています。
ご存じの通り、通常の吉野家の店舗はカウンターに簡素な椅子が並んでいます。そして注文を受けると、早いときには10秒程度で品物が提供され、それを食べる人も5〜10分で食べ終えて席をそそくさと立っていきます。
ランチタイムになると少し行列ができたりもしますが、ピークタイムであっても「来店→食事提供→退店」というサイクルを高速でまわすことによって、1杯あたりの粗利が少なくても黒字を計上できるようにオペレーションをしているのです。
牛丼の安さは、1つの店舗にたくさんのお客さんが訪れる「高回転モデル」で初めて成り立つものなのです。
一方、国会議事堂内の店舗では、前述の通り国会通行証を持っていない限り来店すらできないわけで、この店舗が都心の吉野家のように繁盛することは事実上あり得ません。ですから、通常の店舗のように回転率を高めることに制約があるのです。
したがって、国会議事堂の店舗を独力で採算ラインに乗せるには、通常とは異なる価格設定がおのずと求められるということになります。1杯あたりの単価を上げて、少しでも早く店舗の経費を回収する「高付加価値モデル」です。
1200円という価格は、このような事情が多分に加味された値段であり、必ずしも「材料の違い」、つまり「味の違い」だけで生じるものではないのです。
したがって、私の結論としては、牛重の価格はとても割高であり、同時に「牛重は国会議員を特別扱いしたメニュー・価格ではない」とも言えますね。
表面的な価格や「和牛」という響きに、どうしても私たちは「また政治家ばっかり!」と、敏感に反応してしまうところがあります。また、場合によってはそういった心理を逆手に取った、ポピュリズム的な発言をする政治家が現れることも考え得るところです。
そういう偏ったものに惑わされず、ロジカルに、冷静に判断することが、国民には求められているのだろうと思います。(眞山徳人)
※この記事は、誠ブログの公認会計士まーやんの「ロジカるつぼ」:国会限定!吉野家の「牛重」1,200円は高いのか、安いのかより転載、編集しています。
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