「もう二度とやりたくない」と思えるほど、徹底して打ち込め:勝者のための鉄則55(1/2 ページ)
引退したとき、「ほっとした」というのが正直な気持ちだった。もう一度やりたいかと問われたら、二度とやりたくないと答えただろう。あなたは、そう思えるほど今の仕事と真剣に向き合っているだろうか。
集中連載「勝者のための鉄則55」について
本連載は張本勲著、書籍『プロフェッショナル 勝者のための鉄則55』(日之出出版)から一部抜粋、編集しています。
プロ野球の世界で「一流」と呼ばれるのは、「自分の本当の素質」を追究し、その素質に“正しい方法"で磨きをかけた選手たちを指します。「それは一般社会でも同じだ」と、著者は語ります。
ではどうしたら、「自分の素質」に気付き開花させることができるのか、真のプロフェッショナルとして認められるのか。
王貞治氏、長嶋茂雄氏の「ON」と肩を並べる球界の重鎮が、すべてのビジネスパーソンとプロ野球ファンへ向けて、「ハリモト流☆成功思考、行動、ハウツー」を、熱いメッセージとして贈る一冊です。
今回は引退したときの話をしよう。私は1976年(昭和51)に巨人に移籍し、その年と翌年にリーグ優勝し、長嶋監督を胴上げすることができた。日本シリーズは2年連続で阪急ブレーブスに敗れてしまったが、自分を評価してくれた長嶋さんへの恩返しはできたと思う。巨人には1979年(昭和54)まで在籍し、翌シーズン、ロッテオリオンズに移籍した。
本当は巨人で3000安打を達成し、そのまま引退したかった。1979年シーズンが終わった時点で残り39本。日本のプロ野球では前人未到の記録なだけに、是が非でも達成したかった。ロッテへは重光武雄オーナーの強い誘いで移籍することになったわけだが、巨人としても二枚看板である王・張本の「OH砲」の同時引退だけは避けたかったという事情があったようだ。実際は、私が移籍した1980年(昭和55)シーズン終了後に王は引退し、私はもう1年だけやって引退した。王は引退を発表したとき、電話をくれた。
「ハリやん、悪いな。おれ、先に辞めるわ」
「どうして?」
「それがな、ファーストを守っていて、ピッチャーの牽制球が怖くて、それで決心した」
「分かった。おれはオーナーからもう1年だけやってくれと言われたから、あと1年やるよ」
そんな会話をしたことを憶えている。40歳を超え、身体はもうボロボロだった。ロッテに移籍したころはもう走れなくなっていて、最後のシーズンは70試合に出場、35安打と23年のプロ野球人生で最低の数字しか残せなかった。
引退の2文字を最初に考え始めたのは、今まで苦もなく打てていた球がファールチップになってしまうことだった。1回や2回じゃない、30回も40回も、それまで打てていた球がファールチップになり、ときには空振りをした。さらに目も悪くなり、左眼が中心性網膜炎にかかり、視力が落ち、物がゆがんで見えるようになった。レーザー治療という選択肢もあったが、結局、引退までだましだましだった。
だから、引退を決めるのに迷いはなかった。もう1年やりたいと言ったら、あるいは重光オーナーは許してくれたかもしれないが、やっていたらおそらく生涯打率が3割を切ることになっただろう。世界の王が3割1厘、長嶋さんが3割5厘、私は3割1分9厘。生涯打率を3割に乗せられたら「超一流」バッターの証し。加えて、私には世界で2人しか達成していない記録がある。3割、500本塁打、300盗塁。私とサンフランシスコ・ジャイアンツの伝説的な名選手、ウィリー・メイズだけである。
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