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「もう二度とやりたくない」と思えるほど、徹底して打ち込め:勝者のための鉄則55(2/2 ページ)
引退したとき、「ほっとした」というのが正直な気持ちだった。もう一度やりたいかと問われたら、二度とやりたくないと答えただろう。あなたは、そう思えるほど今の仕事と真剣に向き合っているだろうか。
引退したとき、ほっとしたというのが正直な気持ちだった
もう十分にやった。もう一度やりたいかと問われたら、二度とやりたくないと答えただろう。この不自由な右手で、自分でも本当によくやったと思う。例年、キャンプから4月ごろまで、冷たい季節は守っていて辛かった。ふつうは5本の指で包み込むようにボールを捕るが、私はグローブの薬指と小指の部分に特別の袋を作ってもらい、掌にぶつけるように補球していた。だからライナーだとバチーンと硬球が当たって、2、3分激痛が走る。いっそのこと素手の左手で捕ろうか思うほど、痛かった。もう二度と、こんな不自由な右手で野球をやりたくない。その気持ちは今も変わらない。
その右手のハンディを乗り越えようと努力したからこそ、3085安打できたんじゃないのか。よくそう言われるが、私はこの23年間の苦しみを味わっている。この右手はワイフにも娘にも誰にも見せたことがないが、一度だけ“打撃の神様”川上哲治さんにだけはどうしてもと請われて見せたことがある。そのとき、涙ぐみながら「おまえ、よくこんな手で……」と言ってもらったことで、私の苦労も報われた気がした。
もう二度とやりたくない、そう思えるほど私は徹底して野球に打ち込んだ。努力し、苦労した。あなたは、そう思えるほど今の仕事と真剣に向き合っているだろうか。
(勝者のための鉄則55=終わり)
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