夫を吸い尽くす「タガメ女」を駆除する米国の新しい恋愛のカタチ:伊吹太歩の時事日想(2/2 ページ)
サラリーマンの夫(カエル男)を搾取する専業主婦(タガメ女)を描いた書籍が売れているという。それは結婚というものに窮屈さを感じる日本人が増えているからか。では、米国はというと……。
米国版ビッグダディは妻が4人もいる
理想的な専業主婦像が崩壊している米国だが、実はそれ以前に「結婚」という概念すら崩れつつある。離婚率は世界でもトップクラスで、結婚率も40年前から20%以上減少している。2005年には史上初めて、米国人女性の未婚者が既婚者の数を上回った。さらに同年には既婚者カップルが史上初めて社会の中で「少数派」となった。2008年に出産した米国人女性のうち未婚者は過去最高の41%に上った。
結婚の重要度が低くなっている米国では、さらに一歩進んだ(後退した?)ところまで議論は進んでいる。一夫多妻の是非だ。少し前に、妻が4人いる実在の家族に密着したリアリティ番組が大きな話題になった。『シスター・ワイブス』というこの番組、ユタ州に暮らすコーディ・ブラウン氏の結婚生活を追いかけている。米国版「ビッグダディ」といったところか。
この人気番組、米国ではシーズン4が2013年7月に始まった。ブラウン氏には妻が4人いるが、米国でも重婚は違法だ。正妻以外の3人とは法的には結婚してはいないが、一夫多妻の生活を送っている。2010年から続く番組は視聴率もいいようだ。
以前、取材でジョンズ・ホプキンズ大学の社会学者アンドリュー・チャーリン教授に、米国の結婚事情について話を聞いたことがある。彼は、結婚や離婚、連れ子や婚外子、里子などが当たり前のように受け入れられる米社会で、伝統的な家族の定義はもう崩壊したと断言した。一夫多妻のリアリティ番組がウケるのもそうした背景があるということか。
チャーリン教授は「結婚が家族をもつ唯一の方法ではなくなった今、結婚はこれまでのように必要なものではなくなった」と言う。そして、「問題は結婚や離婚という話ではない。なぜたくさんの人がいまだに結婚をするのかが問題なのだ」とまで言った。
複数の相手との恋愛を肯定するパートナー関係「ポリアモリー」
そんな流れがある米国では、結婚のあり方を見直す人が増えている。そしてここ数年、「ポリアモリー」と呼ばれる男女関係を実践する人が増えているという。ポリアモリーとは、夫婦やカップルがパートナーを特定の1人に限定しない関係のこと。ただ単に自由に浮気をしていいよ、という関係ではなく、複数の相手と同時に恋愛関係してもいいと、パートナー同士が合意する関係だ。
「ものは言いよう」というツッコミも入ってきそうだが、要は従来の夫婦やカップルという形にこだわらない関係ということだ。従来の価値観を嫌うヒッピー文化のようなムーブメントが生まれる素地がある米国では、この傾向も何となく理解できなくもない。ちなみに米ニューズウィーク誌によれば、数年前の時点で、米国でポリアモリーを実践している人は50万人(!)だと言う。その数は増えている可能性がある。
2013年11月末には、米ABCニュースの人気報道番組「ナイトライン」で、このポリアモリーがこれからの結婚の形になるか、というドキュメンタリーが放送された(参照リンク)。新聞やネットでも、ポリアモリーという結婚(恋愛)の形について紹介記事は頻繁に取り上げられている。それほど注目されているということだろう。
ここまで自由な関係になると、「タガメ女」という概念が入り込む余地はない。ちなみにポリアモリーは、「Open Marriage(自由な結婚)」というくくりでも語られる。そんな外向きの関係は、視野が内向きでセコい「タガメ女」の生き方とは真逆だ。
ポリアモリーの世界には、おそらく「タガメ女」によって生み出される「カエル男」も存在し得ないし、窪田氏が指摘するような「カエル男」が権力を持って実社会でパワハラまがいの暴挙に出るなんてこともないだろう。
ひょっとすると、日本の結婚にまつわる窮屈感を打破できるのは、ポリアモリーしかないのかもしれない。というのは言い過ぎだが、結婚という制度についてあらためて考えてみる必要はあるのかもしれない。
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