ソチ五輪ハッキング「誤」報道に見る、偏見に満ちた米メディア:伊吹太歩の時事日想(4/4 ページ)
ロシアでソチ冬季五輪が華々しく幕を開けた。欧米メディアでは、五輪開催前からロシアに対するネガティブキャンペーンが多くみられたが、専門家でなくても「あやしい」と思えてしまうほど……。
ソチに行くよりNBCの五輪中継を見てね?
このリポートのような偏見ある警告は非常に恐ろしいものだ。リポート中で、記者は「ソチに来る大勢のアスリートやファンは地雷原に足を踏み入れている」とまであおっている。一方で、このリポートを批判する専門家らは、一般的な危険があることは否定せず、行うべき対策を示す。この場合、変なサイトをクリックしないこと、パッチを当てること、公共のWi-Fiは避けるべき、などだ。
そして、NBCに関する別の情報が批判にさらなる油を注いでいる。同局がソチ五輪でかなりの金もうけをしているという事実だ。NBCは米国で放送するソチ五輪競技の放送権を7億7500万ドルで獲得している。そして2014年1月初めの時点で、ソチ五輪関連で少なくとも8億ドルの広告収入を確保している。NBCはこれまでプーチン大統領の独裁ぶりや、それで苦しめられる同性愛者などの人権問題を問題視して大々的に報道してきたが、そのロシアで行われるイベントで多額の金もうけをしているのだ。
そしてハッキングに関しても、ソチ五輪の放送権を獲得していながら、ソチを訪れることの危険性をあおる。さすがにNBCの広告営業担当者が「今回はソチまで行って観戦する人は少数ですから」なんて言いつつ広告を取ってくることはないだろうが、ソチまで行かずに米国内で観戦してもらうほうがテレビ局としてはありがたいってことなのか、とうがった見方をする人がいてもおかしくない。
それは少数かもしれないが、ロシアでの人権侵害やハッキングを本当に憂うなら、いっそのこと米国のバラク・オバマ大統領や、ドイツのアンゲラ・メルケル首相などと同じように、「NBCも放送をボイコットしたほうがよかったのでは」と思う人はいる。結局は金もうけのほうが大事だったのだろう? と皮肉を言われても仕方がないのかもしれない。
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