社員が考えた面白いアイデアをマネタイズするのが経営者:世界を変えるビジネスは、たった1人の「熱」から生まれる(3/3 ページ)
イノベーションにつながるアイデアは、最初からお金のことを考えていたのでは生まれません。面白いアイデアがあるのに、マネタイズすることができなければ、それは上司の責任です。
僕はリバネスのネットワークを利用し、琉球大学の先生の協力を得て、まだかろうじて生き残っていた地元の養豚農家と提携しました。そして、廃棄されていたシークワーサーやアセロラのしぼりかすを改良し、リバネスの発酵学のノウハウを活用して自前でエサを生産し、徹頭徹尾、福田の手によって豚を作ることに成功したのです。
いまでは、その豚をリバネスの飲食事業の店舗である「梅酒ダイニング明星」や、福田自身が営業した先へ卸し、実際に消費者に届けています。
とはいえ、ここで終わっていてはただの感動的なストーリーにすぎません。大量生産できるわけでもなく、ビジネスにはなり得ていないからです。これをどうビジネスに発展させるかが、経営者である僕の手腕が問われるところです。
この福田が切り開いた一連のプロセスを通して、リバネスには、いままでまったく関わったこともなかった養豚のノウハウが備わったことになります。じゃあ、このしくみ自体を売ればいい。廃棄物を利用して自前でエサをつくり養豚するというパッケージを売ることにしたのです。例えばカツサンドで有名なとんかつのまい泉では、このモデルで生産した「甘い誘惑」というブランド豚を商品に利用しています。
福田というたった1人のパッションが、1つの「豚作り」のノウハウを提供するというビジネスを作り上げたのです。ちなみに「福幸豚」という商品名は、福田の名字とぼくの名前をドッキングさせたもので、ぼくにとっても印象深いプロジェクトになりました。
ここでも、根底にあるのは「QPMI」の発想です。
「地域の養豚農家を助け、畜産業を活性化できないか」というクエスチョン(Q)がある。アイデアを考えた社員には「これを自分で実現したい」というパッション(P)がある。そこに、上司が最初のメンバー(M)となって、どういうミッション(M)を掲げればいいか一緒に考える。あとは、考え続けることでなんとか答えを見つけ、イノベーション(I)につなげていく。
とにかく、新しいこと、面白いことをやってみよう、という社員個人のパッションが大事なのです。そのパッションをつぶさないようにすることで、新しいアイデアは生まれてくるものだし、マネタイズの方法もなんとかひねり出せるものだと、僕は思っています。
(次回は、「持続可能なしくみを考える」について)
著者プロフィール:
丸幸弘(まる・ゆきひろ)
株式会社リバネス代表取締役CEO。1978年神奈川県横浜市生まれ。
東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。博士(農学)。
リバネスを理工系大学院生のみで2002年に設立。日本初の民間企業による先端科学実験教室を開始する。中高生に最先端科学を伝える取組みとしての「出前実験授業」を中心に200以上のプロジェクトを同時進行させる。2011年、店産店消の植物工場で「グッドデザイン賞2011ビジネスソリューション部門」を受賞。
2012年12月に東証マザーズに上場した株式会社ユーグレナの技術顧問や、小学生が創業したケミストリー・クエスト株式会社、孤独を解消するロボットを作る株式会社オリィ研究所、日本初の遺伝子診断ビジネスを行なう株式会社ジーンクエストなど、15社以上のベンチャーの立ち上げに携わるイノベーター。
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