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利益の獲得と将来に向けた「資産」の形成世界を変えるビジネスは、たった1人の「熱」から生まれる(2/2 ページ)

会社の事業を継続するには「日銭を稼ぐ」ことも大事ですが、将来に向けてどれだけ「資産化」できるかも考えなければなりません。短期的な利益獲得と同時に、長期的な価値の増加をはかるのです。

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出前実験教室が将来のインターンを生む

 出前実験教室も同じです。この事業は、企業や学校から費用をもらうことで利益を生み出す一方で、人材獲得にもつながっています。出前実験教室を受けてサイエンスの魅力を知った高校生が、その後、理系の大学院生となって、リバネスでインターンをやるようになっているのです。つまり、いわゆる「青田買い」として機能しているのです。

 とはいえ、学校の数には限りがありますから、「出前先」を増やしていったとしても、そこで得られる売上には限界があります。だから、出前実験教室をすることによって、会社にどういう資産をもたらすかを、1つひとつの教室ごとに考えてから実行に移すことにしています。

 例えば、リバネスでは、ロサンゼルスでも実験教室を開催しています。ロサンゼルスには日本人が一定数いて、そこに住む子どもたちは、いずれ日本に戻って日本の大学に入ろうとしています。でも、日本のサイエンス事情や大学生活がよく分からないから、どの大学に入ってどんな生活を送れば良いのかが分からず不安を抱えています。

 会社を立ち上げて5年目のとき、僕はロサンゼルスに赴き、1人5000円の授業料で20人ほどの生徒に向けて実験教室を行いました。僕のほかにも社員を何人も海外へ派遣するわけですから、採算はほとんど見込めません。むしろ、利益面では赤字になることが明白でした。

 でも、リバネスはゆくゆくグローバルな会社になることを目指している。それなら、バイリンガルで、米国のサイエンス事情に精通している研究者と、是が非でもつながりを持っておきたいのです。たとえ1度でもリバネスの出前実験教室を受けた生徒が米国にいれば、いつか必ずリバネスに入ってきてくれる。僕はそこを見越して、短期的な利益を度外視して米国に乗り込みました。

すぐに利益は出なくても、長期的な視野で「資産化」を考える

 昨年、吉野公貴君という米国生まれの日本人がリバネスのインターンシップを受けました。UCLAの学生でバイオ燃料の研究をしている彼は、小学6年生だった頃、ロサンゼルスで僕の実験教室を受けていたのです。当時僕が話したユーグレナや根粒菌の話をすべて覚えてくれていて、「是非リバネスのインターンに参加して、丸さんと同じように、サイエンスの面白さを子どもたちに伝えたい」と連絡をくれたのです。7年の時を経て、僕の考えていたことが実現しつつあるのです。

 もし、利益にならないからというだけの理由で米国に行くことを断念していたら、リバネスは今より狭い世界でビジネスを展開せざるをえなかったでしょう。自分たちのビジネスを長期的な視野でとらえる考え方を持ったときに初めて、目先の利益獲得に優先する何かが見えてくるはずです。

 このようにリバネスでは、日銭を稼ぎながら、長期的な視野に立った資産化も考えていくというビジネスモデルの作りこみを強く意識しています。

(次回は「社員の問題意識やアイデアは否定しない」について)

著者プロフィール:

丸幸弘(まる・ゆきひろ)

株式会社リバネス代表取締役CEO。1978年神奈川県横浜市生まれ。

東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。博士(農学)。

リバネスを理工系大学院生のみで2002年に設立。日本初の民間企業による先端科学実験教室を開始する。中高生に最先端科学を伝える取組みとしての「出前実験授業」を中心に200以上のプロジェクトを同時進行させる。2011年、店産店消の植物工場で「グッドデザイン賞2011ビジネスソリューション部門」を受賞。

2012年12月に東証マザーズに上場した株式会社ユーグレナの技術顧問や、小学生が創業したケミストリー・クエスト株式会社、孤独を解消するロボットを作る株式会社オリィ研究所、日本初の遺伝子診断ビジネスを行なう株式会社ジーンクエストなど、15社以上のベンチャーの立ち上げに携わるイノベーター。


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