混迷極まるウクライナ、「欧米VS. ロシア」の代理戦争は起こるのか:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
クリミアから始まった独立活動は、ウクライナ東部の州を巻き込み始めた。民兵による行政庁舎の占拠は、一体何を意味するのか。そして今後、ウクライナ危機がどう展開するか藤田氏が解説する。
武装勢力はプーチンのコントロール下にあるのか
今回の問題は、ウクライナ東部で行政庁舎の占拠などをしている武装勢力に指揮系統があるかどうかがカギだ。仮にロシアの指示で動いているとすれば、ウクライナで内戦を引き起こすリスクは避けたいに違いない。ロシアの大きな収入源である、欧州へと続く天然ガスのパイプラインがウクライナ国内に何本も走っているからだ。内戦で傷つくのはウクライナだけではない。
しかし、逆にこうした武装勢力をプーチン大統領がコントロールできていないとすると、厄介な事態に発展する可能性が高い。現場の熱い戦いを誰もコントロールできないからだ。統治経験があまりない暫定政権では、日本の民主党政権時代を見れば分かるように、危機管理は難しい――というかほぼ不可能と言っていい。
もし内戦が起これば、ロシアはウクライナとの国境に集結している4万というロシア軍を「ロシア人の保護」の名目でウクライナに侵攻させることもありうる。そうなればまさに「欧米VS. ロシア」の代理戦争となってしまうが、プーチン大統領が現時点でそれを望んでいるとは思えない。しかし、事態が動けばプーチン大統領も軍を動かさざるを得ないかもしれない。国内での自らの支持率を維持する方が重要だからだ。
なお、戦争が起こる前に解決するとなれば、親西欧のウクライナ暫定政権が望むような形にならない可能性が高い。ロシアにとってウクライナは、西欧勢力の間にある“緩衝地帯”とも言える、戦略的に重要な地域なので、ウクライナがEUやNATOに加盟することをロシアは絶対に許さないだろう。
- 参考記事→ウクライナはロシア“最後”の緩衝地帯
したがって、欧米諸国はロシアに対して「クリミア併合については黙認。ウクライナで民主的な選挙の結果、どういった政権が誕生しようとも、EUやNATOに加盟させることはしない」という密約をするほかないのでは、とある外交関係者は分析している。このような流れの中で、プーチン大統領との関係を保ちつつ、力による原状の変更は認めないという建前を貫けるのか――安倍政権の外交能力が試される場面である。
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