「年内にモバイルがPCを抜く」 百度CFOが語るビジネス戦略の全貌:現代中国インターネットの覇者たち(2/2 ページ)
百度のナンバー2であり、最高財務責任者として経営を指揮するLi Xin氏をインタビュー。今後の成長戦略などを聞いた。
日本のマーケットをどう見る?
――百度はアジアを中心に市場開拓を進めています。グローバル戦略について教えてください。
ビジネスのグローバル化はまだスタートしたばかりです。現在は、日本、韓国、インド、ベトナム、タイなど、ポテンシャルの高いアジア諸国で事業展開を進めています。こうした新規市場においては一からのブランディングになるわけですから、まずは製品とサービスをローカライズし、現地のユーザーに評価してもらうことを最優先に考えています。そうして足場を固めてから具体的なマーケティング施策に入っていきます。
検索エンジンなどPCベースのサービスについては既に中国以外でもブランドが確立されつつありますが、モバイルに関してはリーダーにはなっていません。ただ、今後中国に限らず世界中でモバイルのニーズが高まっていくため、百度のサービスを世界にアピールしていきたいです。
――日本に対しては、2006年に現地法人を設立するなど、以前から積極的な姿勢を見せています。日本のマーケットをどのように見ていますか。
インターネットビジネスにおいて日本は発展途上の国ではなく、特にモバイル分野でも大きな成長を遂げています。我々も日本のマーケティングについてもっと学ばなければなりません。
当初はサーチエンジンで市場に参入したので、日本のヤフーとどう差別化を図るかを重視しましたが、現在は日本におけるグーグルのシェアも高まっているので、新しいマーケティング施策を考えているところです。
中国と日本は地理的にも近く、古くからビジネスや人材交流が盛んです。中国のインターネットユーザーにも日本に関心がある人は大勢います。そうした中で、百度は中国と日本の架け橋になりたいと思っていますし、架け橋となるべき企業として責任を持っています。
世界的なAIのスペシャリストを登用
――ビッグデータ活用の推進などを目的に、AI(人工知能)専門の研究所を立ち上げたと聞きました。
昨年、北京に深層学習の研究機関である「Beijing Deep Learning Lab」、および、ビッグデータ研究の「Beijing Big Data Lab」を設立しました。前者では、画像認識や音声認識、画像ベースの検索、自然言語処理、機械翻訳、広告マッチングなどを研究しています。
例えば、音声認識に関して、百度が研究開発する音声分析システムは非常に精度が高いです。中国では多数の方言、なまりが存在しますが、現時点で92%の確率で正しく翻訳できています。また、複数人が同時に話しても聞き分ける能力を備えています。
さらに今年5月には、米国・カリフォルニア州サニーベール(シリコンバレー)に新たな研究開発(R&D)センターを新設しました。同時に、AI分野で世界的に有名なアンドリュー・ヌグ氏を招へいし、チーフサイエンティストとしてシリコンバレーおよび北京の研究所を統括してもらうようになりました。ヌグ氏は米スタンフォード大学で教鞭をとるほか、Googleの深層学習チームの設立にも尽力した人物です。
今後も世界中の専門家を集めてAIの研究開発に力を注ぎ、人々の生活をより良くしていきたいと考えています。
情報格差をなくすことが使命
――これから将来に向けて、百度はどういう会社であるべきでしょうか。
創業以来、百度は人々が平等に情報を得られるような世の中にすることを使命としてきました。中国の国土は広く、かつて地方の小さな村や山間部などには情報が行き届いていませんでした。そこでインターネットを利用して中国の人々の情報格差がなくなるように努めてきました。
今後のミッションは、人々とサービスのつながりを強固にすることです。中国のインターネットビジネスはまだ始まったばかりで、さまざまな産業の既存のビジネスモデルがインターネットによって大きく変わろうとしています。そうした中で、百度はどういうサービスを考えて人々の生活を豊かにしていくか、これが私たちの仕事なのです。そのためには、中国だけでなく海外にもっとビジネスの場を広げ、百度というブランドを世界中の人たちに知ってもらうことが重要です。
――まだまだ日本企業では女性の経営幹部は多くありません。女性のリーダーとしてどのような心掛けで仕事をされていますか。
自分自身に対する要求を高くし、プロの意識を持って日々仕事に当たっています。女性だからという甘えはありません。職場で成功したいならストイックさが必要です。
一方で、会社も女性にとって働きやすい環境を作らなければなりません。男性と同じように女性もリーダーになれる制度をきちんと設けるべきです。
その点で、百度は女性のことを考えている企業といえるでしょう。実際、社員の男女比は5:5ですし、マネジメント層の30〜40%は女性です。エンジニアにも女性社員が多いのが特徴です。これらは中国の文化背景にもかかわっています。この50年間で中国の女性は強くなりましたし、子育てしながら働く社会環境も随分と整備されました。
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