JRは夜行列車を見捨てなかった――その先に見える「新・夜行列車」時代:杉山淳一の時事日想(4/5 ページ)
JR西日本とJR東日本から相次いで「豪華夜行列車」が発表された。その一方で消えていく夜行列車もある。今後も夜行列車を続けていく意思があるなら、次にビジネス需要向けの夜行列車も検討してほしい。東京―函館間の新幹線夜行列車を提案する。
「豪華寝台列車」に「夜行需要」の掘り起こしを期待
「豪華寝台列車」が次々と登場し、旧来の夜行列車、とりわけ普通乗車券や「青春18きっぷ」で乗れる夜行列車が消えていく。この流れを見ると「夜行列車は庶民から縁遠い存在になってしまった」と嘆きたくなる。しかしよいことでもある。これで「JR各社は夜行列車を全廃するつもりがない」と分かったからだ。
1990年代以降、東京・大阪発の寝台特急が次々と廃止されていった。このときの公式な廃止理由は利用者の減少であった。しかし、私も含め鉄道ファンは「寝台列車は邪魔者扱いされているのではないか」とうわさした。寝台特急が廃止された時間帯に新たな貨物列車が設定されたため、夜は貨物列車の時間になると思われた。また、夜間は線路保守作業が行われるため、寝台列車は作業の妨げになるという意見もあった。
しかし、それらの意見が正しければ、寝台列車は廃止される一方で、新設はされないはずだ。ところが、JR九州も、JR西日本も、JR東日本も、新たな寝台列車を企画している。夜行列車を嫌っているわけではないらしい。
「ななつ星 in 九州」の場合、実は夜間の走行は少ない。もちろん夜通し走る区間もあるけれど、乗客が眠る時間帯は駅に停車して静寂な客室を提供するか、旅館へ案内するツアーとなっている。夜行列車だからといって、夜通し走り続ける必要はない。夜間は駅に待機させれば、夜間の線路保守の妨げにはならない。そもそも列車の少ない夜間は「施設が遊んでいる状態」である。夜間に貨物列車が走るような幹線では、運行担当の職員が夜間も従事している。旅客列車が増えたところで、大幅な人員の負担にはならない。
客がいない時間帯に、乗客を開拓するという意味で、夜行列車は施設の有効利用策ともいえる。つまり、鉄道会社としては「需要があれば夜行列車を運行して利益を増やしたい」と考えるだろう。ブルートレインが次々に消えていく中で、東京―山陰・四国を結ぶ「サンライズ出雲・瀬戸」は存続している。サンライズはJR西日本とJR東海が車両を保有している。東京発で最後に残った寝台特急が、鉄道ファンからは「在来線利用者に冷たい」と揶揄(やゆ)されるJR東海の列車とは皮肉な結果だ。JR東海にとって「サンライズ」は有益な列車だから存続していると言えそうだ。
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