覚えにくい? 「新函館北斗」という駅名が残念な理由:杉山淳一の時事日想(2/5 ページ)
JR北海道は11日、北海道新幹線の駅名を「新函館北斗」「奥津軽いまべつ」と発表した。そこに違和感を抱く理由は、地元のエゴ丸出しで、利用者のメリットを考慮しないから。決まったことに異議を唱えても仕方ないから、今回は「覚えやすい駅名」と日本語のリズムを考察してみよう。
なぜ「新函館北斗駅」になったのか
しかし残念ながら、札幌方面に延伸予定の北海道新幹線は、函館市中心部には立ち寄れなかった。そこで、建設ルート上にある函館本線の渡島大野駅に新幹線の駅を作ると決めた。函館駅の代用だから「新函館駅」である。横浜駅に対する「新横浜」、神戸駅に対する「新神戸」のような感覚だ。ここまでは異議をはさむ余地はないように思えた。
ところが「新函館駅」の地元の人々は納得しなかった。なぜならそこは函館市ではなく「北斗市」だからである。新横浜は横浜市、新神戸は神戸市にあったから問題ない。しかし、北斗市は函館市ではない。となりの市の名前で駅ができるとは納得できない。北海道新幹線は北斗市を縦断する。騒音問題も引き受ける。なぜ北斗市の名前にならないのだ、と。
北斗市の前身である上磯町は鉱工業と漁業で発展しており、函館市への合併を拒否して北斗市を設立させた経緯がある。北斗市は函館市をライバル視しているし、「新幹線の駅設置は発展の機会」という思惑もあるだろう。「北斗駅としてほしい」という言い分について、北斗市のエゴだと言う意見も多い。新幹線利用者は函館へ行くために「新函館」に行く。「北斗駅」では分かりにくい。そもそも函館市の貢献があってこそ駅ができるわけだ。しかし、設置場所の北斗市の気持ちも分かる。北斗の名を駅名にしたいという気持ちはエゴではない。当然の主張である。なにしろそこは函館ではない。
新駅について、函館市と北斗市は協議を重ねた。「新函館」「北斗」では片方が納得しない。そこで北斗市は「北斗函館駅」を提案したものの、結局話し合いは決着がつかず、JR北海道に一任となった。任されたJR北海道も困る。どちらの市民もお客様だ。そこで北海道に意見を求めると「仮称の新函館がなじんでいる。しかし設置場所の北斗市にも配慮してほしい」という。どちらかに肩入れできないという立場は分かる。しかし役に立たない返事である。どうすりゃいいんだという話だ。
結局、2つの案をくっつけた。これは簡単だ。「新函館」と「北斗」。合わせて「新函館北斗」。順序を逆にすると「北斗新函館」。これは具合が悪い。『北斗の拳』の必殺ワザみたいだ。だから「新」は1文字目がよかろう。ならば「新函館北斗」は妥当だ。こうして両市ともメンツは守られた。メンツを満たすだけの駅名である。
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