PC遠隔操作ウイルス事件でも使われた、匿名化ツール「Tor」ってナニ?:伊吹太歩の時事日想(2/3 ページ)
犯罪の温床になるとして、世界中で注目されている匿名化ツール「Tor」。日本でもPC遠隔操作ウイルス事件で使われたが、結局、このTorとは一体どんなものなのだろうか。
民衆運動を支える一方で、犯罪の温床にも
その後、Torはこの匿名性が注目され、世界各地の活動家などによって、圧政国家などの厳しい検閲や監視をかいくぐって情報を発信する目的で使われるようになった。
監視国家である中国のような国々のユーザーも多く、民衆による運動や活動において情報交換などに活用された。エジプトの民主化運動「アラブの春」もTorがその活動を支えたと言われている。そんな人権的な見地から、このTorネットワークは現在、人権団体などの寄付によって運営、維持されている。ちなみに内部告発サイトのWikiLeaks(ウィキリークス)もこのネットワークを利用していた。
Torを利用するのは非常に簡単だ。公開されている専用のブラウザをダウンロードすればよい。そしてTor経由でWebにアクセスすれば、さまざまな国のPCなどを介してサイトにたどり着くため、利用者の匿名性は守られる。最近では意図的にTor経由でアクセスさせないサイトも出てきているほどだ。
だがこのTor、簡単に利用できて匿名性を守れるゆえに、犯罪の温床になっているのも事実だ。片山被告が行ったような遠隔操作ウイルスの流布などに利用されるだけでなく、リベンジポルノや児童ポルノコンテンツの提供、拳銃や麻薬の密売、クレジットカードの番号や偽パスポートの売買、さらには殺人依頼といった情報までが飛び交うようになった。
そして、そうした地下社会でしか扱えない“商品”を取りそろえたさまざまなオンラインショップも存在し、その決済はやはり匿名のデジタル通貨であるビットコインで行われる。その代表的なサイトが、2013年にFBI(米連邦捜査局)に摘発された、最大の違法ショッピングサイト「シルクロード」だ。シルクロードの摘発直前には、児童ポルノコンテンツを提供していた「フリーダムホスティング」というサイトも摘発されている。
そんなことから、利用者の間では今、Torがもう匿名性を確保できなくなっているのではないかとの懸念が広がっている。完全匿名であるはずのシルクロードなどの管理者が摘発されたということは、FBIに管理者の身元が特定されたということにほかならない。
ちなみにFBIは、シルクロードの件では顧客を装って潜入捜査を続け、管理者から殺人依頼を受けてカネを受け取るといったやり取りから管理者を特定したとしている。フリーダムホスティングの件は、FBIがウイルスでサイトを攻撃して管理者を特定したそうだ。
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