「夏の日」は1994──夏日、長くなっていませんか?:博報堂生活総研・吉川昌孝の「常識の変わり目」(2/2 ページ)
「昔はこうだったのに」──。これまでの常識とは違うことが常識になりつつあると感じる事象はありませんか。データで読み解くと、常識の変わり目が見えてきます。今回はなぜか長くなった……「夏日」の変わり目を探ります。
「キンキンに冷やす」から、自分の工夫で「涼を取る」へ
そんな中、2005年に大きな変化が訪れます。日本は京都議定書(気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書)で、地球温暖化の抑制のため、温室効果ガスの排出量を1990年時の−6%に削減することを目標付けられました。日本政府はこれを実施するため、経済界と協力して国民的運動を始めました。あの「チームマイナス6%」です。同年に「クールビズ」もスタート。これも環境省が音頭を取りました。
こうした国家的な大規模キャンペーンが始まったことで、なんとなく「そもそも冷やされすぎなのではないか」と感じていた人たちは、一気にこうした動きに呼応します。合わせて、2000年に入ってから東海豪雨などの都市部での局地的豪雨=ゲリラ豪雨(流行語・新語大賞になったのは2008年)が続いたこともあるでしょう。
また、熱中症で救急搬送される人が500人を超えたのも2000年に入ってからでした。ヒートアイランド現象という言葉が一般化したのもこの頃です。そんな背景から「1979年の省エネルックの浸透失敗」などはなかったかのような勢いでクールビズはビジネスパーソンに定着しました。
こうした勢いに拍車をかけたのが、2011年の東日本大震災にともなう電力危機と節電意識の高まりでしょう。極端にエアコンを強めるのではなく、なるべく電力を使わず、エネルギー負荷をかけず、いかに暑さをやり過ごすかという工夫をみんなが心がけるようになりました。カジュアルサンダルの「クロックス」が流行したのも2006年〜2007年ですね。最近では、速乾シャツなどのハイテク衣類、汗ふきシートや涼感シーツなども工夫のための1アイテムとして定着してきました。軽装化を促進し、自前で暑さに対処するグッズが人気です。
夏日の増加=夏の長期化が、電化を中心にしたこれまでの都市生活を大きく変え、再び日本らしい伝統的な暑さへの対処法での夏の過ごし方を復活させつつあるようです。
これから暑い日が続けば続くほど、私たちはご先祖様から受け継いだ“いにしえの知恵”を復権させていくのかもしれませんね。
著者プロフィール:吉川昌孝
博報堂生活総合研究所主席研究員。1965年愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒。著書に『亞州未来図2010−4つのシナリオ−』(阪急コミュニケーションズ・共著)、『〜あふれる情報からアイデアを生み出す〜「ものさし」のつくり方』(日本実業出版社)などがある
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