プリン約4000個を誤発注――ツイッターの呼びかけで完売:なぜ人は“動く”のか(2/2 ページ)
1000人――、人を動かすことを考えるときの最少単位。いざ動員を試みると決して容易ではない数字でもある。今回は、プリン4000個を誤発注したという実際の事例をもとに、1000人を動かす条件を探ってみたい。
Q:大勢を動かすには、インターネットを使ったほうが効率がいいんでしょうか?
本田: インターネットを通じて広く呼びかけても、必ずしも人が動くとは限りませんよね。
田端: そうそう。一時期「ネットを活用して、パパっとバズらせてよ」とか調子良く言ってくる人が大量に湧いて出たけど(笑)、そういう人に限って何も分かってない。
本田: そもそも人を動かすには、自発的な行動を促す「何か」が必要で、そのためにはまず発信側が汗をかかなくちゃいけないんです。
田端: 汗のかき方はスケールによって変わるけど、汗をかかなくていいスケールなんてどこにもない。
本田: 1000人と1億人では、発信側が考えるべきプラン、とるべきアクションは違う。でも共通する部分もある。人を動かす絶対条件とでもいうのかな。
田端: 人を動かすには、何かしらの感情をゆさぶる必要がありますよね。
本田: はい。
田端: いろんな感情のなかで、実際に行動に結びつきやすい感情。それは、「もったいない」なんじゃないかと。
本田: あ! そういえば誤発注で注目を集めたのも、ほとんどが“日持ちがしない食べ物”でした。子どもの頃から「食べ物を無駄にしてはいけない」と教えられてきた日本人だからこそ見過ごせなかった、という面はあるのかも。
田端: 国民性もありそう。大きな声じゃ言えないけど、中国で同じ内容をツイートしたら「いらないならもらってやる」「値下げしろ」というリプライが続々飛んできそう(笑)
本田: うわー、目に浮かぶ! でも日本でも、日持ちするものなら「気長に売れば?」「返品すれば?」で話が終わっちゃいそう。
田端: 本気で困ってる感じは大事ですよね。
本田: 背後にプロの思惑がすけて見えた瞬間、興ざめしちゃう。最初は同情的に受け止められても、たび重なると「わざとじゃないか?」「またか」と、からかう声が増えてくる。
田端: その意味では「プリン4000個誤発注」は自作のPOPが良かったですね。いかにも間違えて注文しそうな頼りなさがにじみ出ている。
本田: あれは本気で困ってますよね。
田端: イマドキのユーザーは、企業が金もうけのために仕掛けたものに乗ってやるものかという意地みたいなものがある。でも一転、自分より弱い立場の相手にはすっと手を差し伸べる。P&Gの営業本部長に「シャンプーを間違えて1億本発注してしまいました……」と土下座されても、「知らんがな」とスルーしそう。
本田: スルーどころか叩かれかねない(笑)。大手と個人でとるべき手法は異なります。
田端: でも、ジャパネットの高田社長が「100万台、誤発注しちゃいましてね! 今日は思いきって赤字覚悟の大安売り」なんて言ったら、それなりに売れそう。
本田: 大手と個人の奇跡の共存! 確かにユーザーに生身の人間を感じさせられる人や企業は強い。
田端: この事例のポイントとして、「やるべきことが明確」という分かりやすさがありますね。誤発注は「賞味期限が切れる前にみんなで買おう」。
本田: 「動く」理由を作るのは大変ですけど、ほんのささいなことで人は動かなくなりますからねえ。
田端: 1000人くらいのモデルだと、ピュアな情熱だけでも人を動かせる反面、何かネガティブなものがすけた瞬間、人はピタッと動かなくなる。だからこそ、「情熱」がストレートに伝わるようなシンプルなモデルがいいんでしょうね。
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