世論は否定的? それでも「第2青函トンネル」が必要な理由:杉山淳一の時事日想(1/5 ページ)
青森県議会議長が国土交通省に対して、非公式としつつも「第2青函トンネル」の建設を要望した。これに対して世論は否定的だが、日本全体の物流政策を考える上で、青函トンネルを新幹線と在来線の共用するには問題がある。関門トンネルと同様に、別のトンネルを作るべきではないか。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
2014年7月9日付の河北新報Web版の記事「『第2青函トンネル』建設を 青森県内で待望論(参照リンク)」によると、青森県議会議長が6月12日に国土交通省を訪れ、事務次官に対して非公式に「第2青函トンネル」の要望を伝えた。「国が国土強靱化に力を入れるなら、もう1本掘ってください」とのことだ。この報道はYahoo!などのニュースポータルサイトにも掲載され、多くの人の関心を集めた。
その6日後の7月15日、web R25が「第2青函トンネル案に非難轟々(参照リンク)」と題して、Twitterの投稿を俯瞰し、賛成論もあるとした上で「疑問を持つ声も多い」と紹介している。そしてその翌日、Yahoo!が「第2青函トンネルをどう思う?(参照リンク)」と題した意識調査を実施。2014年7月16日から2014年7月26日までの集計で集まった、計9万1630票のうち「必要」は15.9%。「不必要」は78.4%となった。圧倒的に不要論が多かったのが分かる。
このときの論点は「在来線規格の貨物列車と北海道新幹線を共用した場合、新幹線のスピードが制限される」であった。新幹線が高速走行する場合、貨物列車とすれ違う時の風圧が大きすぎる。だから新幹線を減速する必要がある、というわけだ。たしかに青森県は新幹線建設について費用を負担しているし、言う権利はある。北海道からも高速運転の要望が出ているという。
しかし、河北新報の記事を読む限り、青森県議会議長の主張は「新幹線のスピードアップのため」ではない。「国土強靱化」である。私は「スピード」と「国土強靱化」は違う意味だと思う。そもそも、青森県はすでに中心部まで新幹線が通じており、東京へ高速にアクセスできる。青函トンネルの先は北海道だ。北海道が東京へのスピードアップを望むなら理解できる。しかし、北海道には失礼ながら、青森県がそれほど函館、あるいは札幌へのスピードアップを望むだろうか。
青森県議会議長は、もっと広い視野で、日本全体の物流を見据えているのではないか。青森県だけの便益と比較したり、新幹線スピードアップの費用対効果を論じたりするだけでは、もっと大事な問題を見落としそうだ。なぜなら、青函トンネル問題の本質は、新幹線のスピードではなく、鉄道貨物輸送の減便にあるからだ。
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