世論は否定的? それでも「第2青函トンネル」が必要な理由:杉山淳一の時事日想(2/5 ページ)
青森県議会議長が国土交通省に対して、非公式としつつも「第2青函トンネル」の建設を要望した。これに対して世論は否定的だが、日本全体の物流政策を考える上で、青函トンネルを新幹線と在来線の共用するには問題がある。関門トンネルと同様に、別のトンネルを作るべきではないか。
青函トンネル「共用」の問題点
新幹線列車と在来線貨物列車が同じトンネルを使う。国土交通省はこれを「青函共用」と呼んでいる。その問題点は「交通政策審議会陸上交通分科会鉄道部会整備新幹線小委員会青函共用走行区間技術検討ワーキンググループ(参照リンク)」にて審議されてきた。議題の中心は、時速260キロメートルの新幹線列車と、時速140キロメートルの在来線貨物列車のすれ違い問題である。ここでは2つの弊害が指摘されている。
1つはすれ違い時の風圧で、車体の軽い貨物列車が大きく揺れ、脱線しかねないという問題。もう1つは、新幹線に比べ在来線貨物列車の事故率が大きいという問題。これは積荷崩れではなく、車両故障やコンテナの扉のロックが外れる危険性を見込んでいる。コンテナが開いた場合、在来線貨物列車同士なら車体が小さいので当たりにくい。しかし新幹線の車体は大きいため、接触して大惨事になる。貨物列車の故障については、JR北海道、JR貨物とも脱線事故などが続いており、痛いところを突かれた格好だ。
現在、青函トンネルでは貨物列車が上下合わせて51本、特急「白鳥」など旅客列車が28本のダイヤを設定している。仮に旅客列車28本を新幹線に置き換えると、すれ違いだけではなく、新幹線列車が先行する貨物列車に追いつきそうになるという問題もある。列車の運行本数を最大にするためには、すべての列車を同じ速度にしたい。そうなれば、速い列車を遅い列車の速度に合わせる必要がある。その逆はできない。
このため、いったんは「新幹線列車を貨物列車と同じ時速140キロメートルで走らせる」という方針になったのだが、これでは新幹線による高速化のメリットが薄い。前ページ下の表にあるように、東京―札幌間で比較すると、新函館開業時の所要時間は、時速260キロメートルで走らせると6時間37分、時速140キロメートルに制限すると6時間55分となる。これは新函館から在来線特急に乗り換えた場合だ。どちらも6時間台で差は小さく見える。
しかし、新幹線が札幌まで開業し、全区間を新幹線で走った場合の所要時間は 時速260キロメートルで4時間43分、時速140キロメートル制限で5時間1分となる。同じ18分差でも、4時間台と5時間台では印象が異なる。
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