世論は否定的? それでも「第2青函トンネル」が必要な理由:杉山淳一の時事日想(5/5 ページ)
青森県議会議長が国土交通省に対して、非公式としつつも「第2青函トンネル」の建設を要望した。これに対して世論は否定的だが、日本全体の物流政策を考える上で、青函トンネルを新幹線と在来線の共用するには問題がある。関門トンネルと同様に、別のトンネルを作るべきではないか。
沈埋トンネル工法でコストを削減できる
「もう1つ青函トンネルを作る」というと、途方もない大工事を再び――と思いがちだ。高倉健主演の映画『海峡』を観れば、青函トンネルがいかに難工事であり、必要とする建設期間が長かったかが分かる。青函トンネルは建設費が巨額で維持費もかかるため、完成しても埋めてしまおうという議論さえ起きた。今でも維持費は大きく、JR北海道の負担の1つになっている。それでも便益は大きい。
今新たに青函トンネルを作るなら、最新の技術を使ってもっと安価にできる。青函トンネルはダイナマイトを使う工法で、出水にも悩まされた。しかし、現在はシールド工法と沈埋工法がある。沈埋工法とは、トンネルをあらかじめ地上で作り、海底に掘った溝に置いてつなぎ、最後に水を抜く。東海道貨物線の羽田空港付近のトンネルでも採用されているし、JR東日本が作ろうとしている羽田新アクセス線のトンネル(関連記事)もこの工法を想定しているはずだ。
沈埋工法はトルコ・イスタンブールのボスポラス海峡でも採用された。工事は日本の大成建設が担当しており、水深60メートルの沈埋トンネル設置は世界最深記録である。一方、青函トンネルは最深部140メートルでもっと深い。しかし、熊谷組が開発した「大水深構造物沈設システム(参照リンク)」を使えば実現できそうだ。陸上部はシールド工法で、海底部は沈埋工法を採用する。現在の青函トンネルの工事は、海底部地下の地質がもろく出水に悩まされた。沈埋工法はその区間を掘らない。トンネルを載せるだけだ。
「第2青函トンネルは同じルートを取らず、下北半島経由で」という声もあるらしい。しかしあちらは水深240メートルもあり、前後の勾配区間のトンネルが長すぎる。しかも火山帯に近い。現在の青函トンネル建設時も下北半島ルートは却下された。第2青函トンネルは、地質調査済みの現トンネル付近が良い。
国土交通省の試算では、第2青函トンネルの建設費は複線で約5800億円、単線で約5000億円という。これは現地状況やコスト面から「非現実的」と退けられた。しかし、一部を沈埋工法にする形で、もう一度見積もりを取ってもいいのではないか。
先の観光列車の件は一笑に付して構わない。しかし、第2青函トンネルは「新幹線の所要時間を18分早める」だけの設備ではない。「貨物列車の輸送力確保」と「新幹線の最大効果発揮」は真剣に考えなくてはいけない。
鉄道、道路、航路、空路。それぞれに距離や輸送量によるメリットとデメリットがある。それを見据えた上で、日本全体の物流と輸送システムの役割分担について、国は確固たる指針を定めるべきだ。これが、青森県議会議長の「国土強靱化」発言の本質だと思う。
杉山氏監修の展示もあります! 「鉄道×映像」展が開催中
2014年9月6日より12月28日まで、埼玉県川口市の「SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ 映像ミュージアム」にて、『鉄道×映像』展が開催されます。
この中の「鉄道×映画 鉄道映画名作10選」の展示を杉山淳一氏が監修! 文中で取り上げた『大いなる驀進』ほか、9タイトルの鉄道映像作品を紹介しています。このほかにも「鉄道×映像の誕生 ラ・シオタ駅への列車の到着」「鉄道×データ あなたのICカード乗車券の記録を可視化」「鉄道×カメラワーク 鉄道思い出のぞき窓」など、鉄道の新しい魅力を発見できる展示もいろいろ。みなさん、ぜひ行きましょう。
- 会期:2014年9月6日(土)〜2014年12月28日(日)
- 会場:SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ 映像ミュージアム(埼玉県川口市上青木3-12-63)
- 開館時間:9:30〜17:00(入館は16:30まで)
- 休館日:月曜日(祝日の場合は翌平日)
- 料金:大人510円、小中学生250円
- 主催:埼玉県
- 後援:埼玉県教育委員会/川口市/川口市教育委員会/JR東日本大宮支社
- 協力:株式会社アートディンク/アンスティチュ・フランセ東京/エルメスジャポン株式会社/株式会社音楽館/株式会社 小学館集英社プロダクション/株式会社タイトー/鉄道博物館/東京大学(廣瀬・谷川研究室)/日本大学芸術学部 ※50音順
- 展示監修:杉山淳一(鉄道ライター)
- 企画:株式会社デジタルSKIPステーション
- 問い合わせ:映像ミュージアム/048-265-2500
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