日本人が抱える「英語トラウマ」の取り除き方:8言語マスター・新条正恵さんインタビュー(2)(1/3 ページ)
グローバルビジネスの世界で、日本人は「英語が苦手」なばかりに取り残されてしまっている――そう警鐘を鳴らすのは、外資系企業で長く働いてきた新条正恵さんだ。8カ国語をマスターした彼女に、日本人が抱える「英語トラウマ」の取り除き方を聞いた。
英語を使いこなせるかどうかで給料に差が出るというのはよく言われる話ですが、私の例を見てみましょう。私は英語が得意だったこともあり、新卒社員として外資系企業に入社しました。外資系企業の初任給は日本企業に比べて100万円から200万円ほど高いことも珍しくないため、ある意味、入社時点で差は出ていたといえます。その後、キャリアアップを図るために12年間で5回の転職を経験しています。外資系企業では勤続年数を重ねることが大きな昇給につながる、という制度を採用しているケースはあまりありませんので、給料を大幅に上げたければ転職をするというのが一般的です。事実、私自身も転職のたびに給料を上げることに成功してきました。
私の担っていた仕事は、金融とITを同時に理解していなければならないという特殊なものでしたが、一方でエンジニアとして格段に専門的なスキルが必要だったわけではありませんでした。それにもかかわらず、転職時には毎回高い評価を得ることができた理由の1つは、私がビジネスに必要な英語を完璧に使いこなせたからだと思います。
ビジネスに必要な英語力は「中学レベル+α」
ここで重要なのは、「ビジネスで必要な英語力」とは、どの程度のレベルなのかということ。仕事で英語を使うと聞くと、ものすごくハードルが高いと考えてしまう人が少なくないと思いますが、これは思い違いと言えます。なぜなら、ビジネスで求められている英語力とは、「ネイティブ英語」でも「よどみのない流りょうさ」でもないからです。実際にビジネスシーンで使われているのは、実はネイティブ英語よりもずっとやさしい英語なのです。
日本人がビジネスの場で会話をする相手は、なにも米国人や英国人ばかりではありません。これから話す機会が増える外国人は、とくにアジア人だと思います。ではアジアのビジネスパーソンはどれほどのレベルの英語を話すことができるのでしょうか。
その答えは、「中学レベル+α」です。フィリピンやインド、香港、シンガポールなど、アジアでも英語を公用語としている国はいくつかありますが、その他の大多数の国の人々にとって英語は、日本と同様に第二外国語となります。このような国の人たちが使う英語はとてもシンプルです。文法は日本の中学レベル。単語は日常会話用の単語集2000語程度を覚えておけば事足りるでしょう。仕事の内容にもよりますが、実際には1000語と業界で使用される専門用語を知っているだけでも十分かもしれません。
アジア人の英語は発音が独特で、文法も教科書通りというわけではありません。シンガポール人のクセの強い英語は、しばしば「シングリッシュ」と呼ばれていますし、中華系の人は完了形を表す動詞の後によく「ラー(了)」という言葉をつけ加えます。これは英語に中国語が混じってしまっているのですが、それでもビジネスはきちんと成り立ちます。文法が正しくなくても、大切なことはきちんと伝えられているのです。
一方で、英会話が苦手な日本人は、実は英語はとても得意です。日本人の作成する英文メールや文書は、アジアのどの国の人よりもレベルが高いと評価されています。文法が正しく、とても論理的なため、その内容はネイティブの人たちでさえ感心するほどです。
しかし、そのような正確なメールをくれる相手がまさか英語を話せないとは思わないので、海外拠点で働く外国人は、何かの用事で日本に電話をかけた際などにびっくりすることになります。どの国の人よりも英作文が得意で、どの国の人よりも英語が話せないのが日本人なのです。
グロービッシュは非ネイティブの共通言語
実は欧米でも、ビジネスシーンではネイティブレベルの英語はあまり使われていません。米国は移民の国ですから英語が苦手な人がたくさんいますし、ヨーロッパも英国以外はみんな第一言語が異なります。このようにいろいろな国の人が集まるビジネスの環境では、必然的に難しい単語を使わず、ゆっくりしたスピードではっきりと話すことが求められます。もしもミーティングでネイティブの人が普段通りにどんどん話を進めてしまえば、ついていけない非ネイティブの人は意見を出せなくなってしまいますし、企業同士の交渉などでは、誤解して契約を結んでしまうといったリスクも生じてしまうからです。
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