イオン経済圏でもっとユーザーと密接に――イオンが自らMVNOになった理由:MVNOに聞く(1/2 ページ)
これまで他社の格安SIMサービスを販売していたイオンが、自らMVNOになり、新たなサービスを提供している。500MBから50GBまで、きめ細やかな容量を設定し、サポートも拡充。イオンリテールの橋本昌一氏に、新サービスの狙いを聞いた。
「格安スマホ」「格安SIM」という言葉の語源には諸説あるが、その火付け役となった1社が、イオンであることは間違いないだろう。同社は、まだMVNOがそれほどメジャーではなかった2014年に、「Nexus 4」と日本通信のSIMカードをセットで販売し、総額で月2980円という料金を打ち出した。
その後も、同社は端末のラインアップやMVNOのバリエーションを拡充。北は北海道から南は沖縄まで、全国を網羅した店舗の数を生かし、MVNO普及の立役者となった。リアルな店舗での販売を行うことで、スマートフォンや通信に詳しくないユーザーにとっても、安心して購入、契約できる場になっていたというわけだ。
そんなイオンが2月に、ついに自社でMVNOを開始した。サービス名は「イオンモバイル」。500MBから50GBまで、きめ細やかな容量を設定し、3回線セットの「シェアプラン」も打ち出している。では、イオンはなぜ自社でMVNOを始めたのか。イオンモバイルの勝算を、イオンリテールの住居余暇商品企画本部 デジタル事業部長 橋本昌一氏に聞いた。
イオンが自らMVNOを始めた理由
――(聞き手:石野純也) 最初に、これまで販売を中心にしてきたイオンが、自らMVNOになった理由をお話ください。
橋本氏 もともとイオンは、MVNOの代理店としてこのビジネスをスタートしました。それが非常に好調だったというのが1つです。ただ、これは、顧客データが各事業者のものになってしまい、私どもには残らないスキームです。ここまでのボリュームが出るなら、顧客データを私どもで管理し、イオン経済圏でお客さまにもっと密接につながりたいというのが、MVNOを始めた理由です。
―― とはいえ、販売と通信事業であるMVNOでは、大きな違いがあります。そこへ踏み出すには、苦労もあったのではないでしょうか。
橋本氏 おっしゃる通り、通信事業者としてのノウハウを、きちっと持っているわけではありませんでした。そこはMVNEに協力していただきながらです。私どもの社内にないような知識や機能は、外部に協力していただき、事業者としての責任を負う形です。
―― 料金プランのバリエーションが非常に多彩なところは、特徴の1つだと思います。この狙いを教えてください。
橋本氏 料金については、全29種類で、確かに非常にたくさんあります。これが分かりにくいかどうかは、内部でも議論になりました。ただ、1つは音声プラン、1つはデータプラン、もう1つはシェアプランで、コースは3つ、あとは容量による差だけです。数としては多いようにも見えますが、実際には3つのプランの中に、容量の差があるだけなので、お客さまにはそう分かりにくくならないと判断しました。
―― 40GB、50GBというコースもありますが、これはなかなか珍しいですね。
橋本氏 そうですね。通信品質をきっちり担保しながら、大容量を設定しました。
―― もともとのイオンスマホは、初心者層が多かったとうかがっています。その意味では、ユーザー層が変わったのでしょうか。
橋本氏 初心者の方が非常に多いのは事実です。ただ一方で、店舗によってはかなりビジネス寄りの方もいます。例えば、品川店だと非常にビジネス客が多く、今までのものより大容量のプランはないのかというニーズがありました。都市型の店舗は、従来の郊外型のショッピングセンターとは違っています。
―― なるほど。逆に、500MBのような小容量プランもあります。こちらについてはいかがですか。
橋本氏 スタートした際に、最安を狙ったことはありますが、実際の利用はあまり想定していませんでした。ただ、60歳以上の方で、ガラケー代わりにスマートフォンをちょっと使うなら、これで十分ということもあります。
―― 先ほど、品質というお話がありましたが、これはどう担保していくのでしょうか。
橋本氏 速度は、安定したところを目指しています。そのため、通信品質には非常にこだわり、MVNEとの商談にも長い時間をかけました。
―― MVNEを選ぶ基準のようなものは、どうされたのでしょうか。
橋本氏 MVNEの幹部の方々とお話していると、いろいろな特徴があり、企業ごとの姿勢も見えてきます。市場も調べ、ほかにはMVNEがやっているMVNOの品質も確認して、ここと組むのが一番いいと思ったところとやらせていただくことにしました。
「ここまで来るのか」というくらい注文が殺到
―― サービス開始直後からユーザーが殺到して、受付時間が短縮してしまったと聞いています。これは、なぜでしょうか。
橋本氏 お客さまが殺到してしまったのが1つ。また、システムの開発にも遅れが出てしまい、準備が万全ではありませんでした。
―― ある程度、人が集まることは予想できたと思いますが、それを超えていたということですか。
橋本氏 予想よりだいぶ……。ここまで来るのかと……(絶句)。
―― ここまで人気を集めた理由は、どこにあると分析されていますか。
橋本氏 やはり、マスコミに大きく取り上げていただいたことだと思います。ネットにも、混雑しているなどと書かれています。厳しいご意見もいただいていますが、速度であったり品質であったりは、好感触な評価も結構あります。それが、ネットで口コミのように広がっている。大変ありがたい話です。
―― 混雑はそろそろ解消されそうでしょうか。
橋本氏 もう、ほぼ解消されつつあります。ただ、ご来店希望が、土日という方が非常に多い。そこにどうしても集中してしまいます。来店いただいても、結果的にお待たせしてしまうこともあります。かなりご迷惑をおかけしていて、これは本当に申し訳ない思いです。
―― オンラインでの受付は、いかがでしょう。
橋本氏 予約の分がなくなってから、開設しようとしています。お客さんからすると、予約して取りに行っているのに、オンラインが空いていて先に契約できてしまうのは心情的によくありません。
半額の「arrows M01」が圧倒的に売れている
―― これまでのイオンスマホとイオンモバイルでは、客層に違いが出たようなことはありますか。
橋本氏 今、データを取っているところですが、年代はそう大きく変わっていません。もっと若い方が増えるかと思っていましたが。ただ、売り場に行っていろいろと見ていると、このシーズンなので親子連れが多い。実際の使用者は中学生、高校生で、契約者が親御さんになっている形もあると思います。
―― そうなると、端末の購入率も高そうですね。
橋本氏 高いですね。今は富士通の「arrows M01」を半額で提供していることもあり、これが圧倒的です。「arrows M02」も画面が大きいこともあり、想定以上にお客さまが来ています。他が増えていないかというとそうでもなく、全体が上がっていて、京セラの端末も受けがいいですね。
―― 日本メーカーが強いですね。
橋本氏 海外メーカーのものが、ほとんど完売状態になっているというのがあると思います。
―― それは、狙って日本メーカーにシフトしているのでしょうか。
橋本氏 昨年(2015年)から、日本ブランドの品ぞろえを増やしているのは確かです。どちらかというと、年代的に保守的な傾向が強い客層というのもあると思います。ただ、今の状況を考えると、やはり海外ブランドの端末も、もっと入れていかなければいけないと考えているところです。
―― 海外端末は、ハードルが高いと思われていることはないのでしょうか。
橋本氏 そんなことはありません。イオンスマホの第1弾はNexus 4でしたし、その後もgeanee、ALCATELを出してきました。それらを出して、いろいろなお客さまからお叱りをいただいたかというと、そんなことはありません。やり方次第だと考えています。
―― 売れ筋のarrows 01についてですが、どちらかというと、高めの年齢層を狙った端末に見えます。実際、そのようなユーザーが多いのでしょうか。
橋本氏 おっしゃるような年齢が高い方と、あとは初めてスマートフォンを使うお子さんですね。本音をいってしまえば、お子さんはiPhoneが欲しいのかもしれない。ただ、初めてのスマートフォンで、月に7000円、8000円かかるのは、家計にとっても大変なことです。接客しているとよく分かりますが、お子さんとお母さんでは、気持ちがだいぶ違う。そのいい落としどころとして、arrows M01が選ばれているのだと思います。
―― 防水・防じんで安心というのもありますからね。
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