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災害時の基地局ダウンを瞬時にカバー 「圏外」ゼロを目指すソフトバンクのLTE衛星システム(2/2 ページ)

基地局がダウンしても被災地を圏外にしない。そんなインフラを目指し、ソフトバンクが人工衛星をLTE基地局として使うシステムを試作した。2020年代前半の実用化が目標だ。

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最大のハードル、衛星を誰が用意するのか

 LTEの通信規格のまま出力をアップし、パラメータの書き換えで遅延にも対処した今回の試作システムだが、実は肝心の衛星が存在しない。そのため、公開された実証実験では、気球を使った無線中継システムを衛星に見立て、衛星通信時と同じ遅延を再現する装置を介して通信が行われた。またLTEの周波数(2.1GHz)を衛星通信で使われている周波数(Sバンド:3.3GHz)に変換する装置も追加している。


地上とLTE通信ができる衛星が存在しないため、実証実験は気球基地局を衛星に見立てた
実証実験の概要

 実証実験では、0.5秒という遅延が通話にもそのまま現れ、会話がひと呼吸遅れるという印象だ。衛星経由時の通信速度は最大1Mbpsだが、実測では数百kbpsだった。しかし、非常時に安否確認のための通話や通信を行うのであれば十分だろう。接続先を衛星から地上の基地局に切り替え(ハンドオーバー)ても通信が途切れることはなかった。

試作システムの端末側。周波数の変換や遅延の再現のため、スマホではなく開発用のLTEチップを用いている(写真=左)。お台場の青海駅付近に浮かぶ気球(衛星)と通信する(写真=右)

左が地上局の遅延(12ms)、右がLTE基地局衛星の遅延(539ms)

 また屋外など空が見える状態でなければ通信できない、天候でもある程度の影響を受けるという、衛星通信ならではの弱点もある。ただ、試作システムで使われたブースターはWi-Fiルーターとしての役割があるため、これを窓際などに置くことで室内でも利用できる。

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 そのブースターも、将来的にスマホのアンテナを強化して無くすことできるという。衛星通信で使われるSバンドは2~3GHz帯域で、LTEの周波数に近い。藤井氏は「3GPPでLTEの宇宙利用が標準化されれば周波数の変換も不要になり、スマホ単体、あるいは外付けアンテナを追加する程度で、衛星と直接通信が可能になるだろう」と予測する。

 だが実用化最大のハードルは、誰が衛星を用意するのか? という点だ。現在、LTEに対応した人工衛星はなく、これから基地局機能を持った衛星を新たに開発し、打ち上げる必要がある。

 ソフトバンクは単独あるいは共同でのLTE基地局衛星の運営に意欲を見せるが、「衛星の打ち上げには国の意向も関係してくる。衛星軌道の利用は国際的な権益であり、各国が順番待ちをしている状態だ。日本に割り当てがあっても、今度は国内で民間企業や研究機関を交えた争奪戦になる。また使う周波数も周辺国と調整しなくてはならない」と、実現に向け多くのハードルがあることを認めた。

 「総務省などと調整しているが、1社だけの問題ではなく、国としての取り組みが必要」(ソフトバンク)と、官民を超えた働きかけをしているというが、実用化のめどは早くても「2020年代の初めごろ」(同)になるという。

 道のりが厳しそうなソフトバンクのLTE基地局衛星だが、日本全体をエリア化してしまう計画には大きな夢がある。宇宙開発となれば5~10年は必要で、巨額の資金も必要だ。ソフトバンクグループの孫正義社長は、ニケシュ・アローラ氏の副社長退任時に「いくつかのクレイジーな構想も実現するため、少なくともあと5年から10年は代表取締役社長として当社を率いていく」というコメントを発表している。もしかするとLTE基地局衛星も“クレイジーな構想”のリストに入っているのかもしれない。

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