インタビュー

LTE通信、モジュール、サービスを統合――「さくらのIoT Platform」の狙いと海外展開の勝算

さくらインターネットは、「さくらのIoT Platform」を開発。1月には香港に拠点を構えてグローバル展開も進める。クラウド、モジュール、通信を統合的に展開する狙いや、海外での勝算を聞いた。

 さくらインターネットは、IoT製品に搭載可能な小型のLTE通信モジュールと、データを保存・活用できるクラウドサービス、その間を結ぶセキュアなLTE閉域網を提供するIoT向けのプラットフォーム「さくらのIoT Platform」を開発。現在β版として展開中だ。1月のCESではさらに、このプラットフォームをグローバル展開すると発表。既に香港に拠点を構えて現地法人を設立し、準備を進めていることを明らかにした。

 さくらインターネットが提供する通信モジュール「さくらの通信モジュール」にはSIMカードスロットがあり、ここにSIMをセットした状態で提供される。プラットフォームの月額利用料金は1台につき100円程度を想定。国や地域による価格差をどう設定するかは今後検討していくが、安価に提供可能という。


「さくらIoT Platform」の概念図

 自身のプラットフォームによって「IoT製品・サービスを手掛ける国内外のスタートアップが、障壁を感じることなくグローバル展開できる環境を提供したい」と語る、さくらインターネットの田中邦裕氏と山口亮介氏に、「さくらのIoT Platform」の強みとグローバル展開の勝算を聞いた。

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さくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕氏(右)と、同IoT事業推進室室長の山口亮介氏(左)

「さくらIoT Platform」とは?

―― あらためて、「さくらのIoT Platform」の特徴をお聞かせください。

田中氏 「IoTプラットフォーム」と呼ばれるものにもいろいろありますが、多くはインターネットにつながった先、クラウドでのデータ解析やサービス連携ができる環境を提供するものです。さくらのIoT Platformの特徴はIoT製品に組み込む通信モジュールとクラウド、その間をつなぐセルラー通信まで含めて、一気通貫でサービスを提供していること。Wi-FiやBluetoothではなく、セルラー通信をプラットフォームに組み込んでいる例は、グローバルで見ても少ないと思います。

―― セルラー通信を採用していること、一気通貫で提供することのメリットは?

田中氏 一気通貫であるメリットは、まずコストですね。通信モジュール、セルラー閉域網、クラウドサービスと水平分業になっているものを個別に取り入れていくとどうしてもコスト高になりますが、弊社はそれらを一体で提供しているので、料金が安く抑えられます。

山口氏 一気通貫だから、電気信号を扱うモノ作りとHTTPのWebという異なるエンジニアリングを、容易につなげられるということもあります。弊社の通信モジュールなら、モノ作りの経験のある方であれば、組み込んでから数時間とかからずにデータを送るところまでできる。実際にモノ作り、サービス作りが非常に早くできるという、フィードバックもいただいています。


「さくらの通信モジュール」

 Wi-FiやBluetoothの場合は接続のための設定が必要ですが、セルラー通信の場合はSIMのIDさえ分かればそのままつながるので、その点でも非常に速い。またWi-FiやBluetoothのように、電波が届かないという心配も必要ありません。どこでも使えるという利便性の高さは、やはりセルラー通信が群を抜いています。

―― そもそも、このIoTプラットフォーム事業にはいつ頃から取り組んでこられたのでしょうか?

田中氏 開発がスタートしたのは2014年です。当初は今のようなLTE網ではなく、PHS網を使ったものを想定していました。本当はキャリアと一緒にやりたかったのですが、事業の規模が小さいということで乗ってくれなかった。そこでモジュールから自社で手掛けることにして、試作品ができたのが2015年。DMM.makeで作った、メイドインアキバです。

 ハードウェアの開発はリスクが高いと敬遠されがちですが、弊社はもともとがモノ作りの会社ではないので、逆にそこはちゅうちょなく取り組めた。一方でネットワークについては長い経験がありますから、その知見を生かすことができます。スタートアップ的なモノ作りとネットワークで培った経験から生まれたのが、さくらのIoT Platformです。

β版の活用事例

―― β版がスタートしていますが、具体的な活用事例を教えてください。

山口氏 例えば今ハウステンボスさんと一緒にやっているのが、パーク内のゴミ箱の状態を通知するシステムです。最終的にはパークをオートメーション化したいという目標があって、そのためにはまず、パークの状態をロボットが把握できるようにしなければならない。じゃあロボットに情報を与える仕組みをどう作るかということで、ゴミ箱から始めています。

 また沖縄では、増えすぎたマングースを駆除するためにたくさんのワナが仕掛けられているんですが、これまではいつどこのワナで捕まったかというデータを手入力していた。これを自動化できないかということで、今地元の企業と一緒に取り組みをしています。同じような問題を抱えているところは多いはずなので、この取り組みはさらに広げていきたいですね。

海外展開の狙いと勝算

―― 開発から海外展開まで非常に早い決断ですが、狙いは?

田中氏 海外展開については、全社として取り組んでいく方針で、2016年7月にチームを立ち上げました。IoTプラットフォーム事業ではグローバルのモバイルネットワークの中心である香港に拠点を構え、まずは現地の通信事業者となり、そこからローミングという形でグローバル展開する計画です。

 目指すのはIoT製品やサービスを手掛ける国内外のスタートアップや、社内ベンチャーが、たとえ小規模なプロジェクトでも障壁を感じることなく、グローバル展開できるようにすること。今でもWi-FiやBluetoothなら可能ですが、セルラー通信につながるようにしようとするとコスト高で、大規模なプロジェクトでなければ導入が難しい。例えばAmazonのKindleはセルラー通信につながりますが、あれはAmazonの規模だからできることです。

 100個、1000個という単位だと、セルラー通信はどうしてもハードルが高くなりますが、弊社のIoTプラットフォームを利用することで、小規模なプロジェクトでもスケールメリットが得られるようにしたい。国内のスタートアップの海外進出をサポートするだけでなく、アメリカのスタートアップがボリュームゾーンであるアジアへの進出を考える際にも、選ばれるサービスに育てていきたいと考えています。

―― 海外展開の勝算をどのように見積もっていますか?

山口氏 セルラー通信のコストという点では、日本よりも海外の方がむしろ安い。モジュールを共通化していれば、ネットワークのオペレーションはもともと専門ですし、あとはわれわれがどうキャリアと契約するかという話ですから、非常に手応えは感じています。

田中氏 もちろん今後、類似のプラットフォームを提供するところは出てくるでしょうし、もっと安いものも出てくるかもしれませんが、今先んじてやっておくことで、多くの経験を得られるし、それが信用になっていくはず。スタートアップはリスクを負いたくないので、そのときにいかに経験を先行してブランドを確立できているかが勝負になるでしょう。

―― さらにその先に、どのような目標を置いていますか?

田中氏 将来的には、SIMカードの呪縛から逃れたいというのはありますね。今はSIMカードを交換することで通信モジュールを国内外で使い分けられるようになっていますが、せっかくハードウェアと通信を一体で提供しているのだから、1つのハードウェアでどこでもそのまま使えるというのが理想ですよね。SIMカードを交換しなくても、キャリアを切り替えられるようにしたいですね。

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