連載終了した作品がヒット、書店の売り上げ増にも貢献 「LINEマンガ」が出版業界にもたらす影響(2/2 ページ)
LINEのサービスの中でも高い人気を誇る「LINEマンガ」。このLINEマンガをはじめとする電子コミックサービスが、出版業界全体にどのような影響をもたらしているのか。LINEマンガ担当者や出版関係者などが明かした。
デジタルは旧作に効果ありだが新作に課題
こうした事例が示す通り、スマートフォンの漫画アプリが業界全体にもたらす影響は、非常に大きなものとなってきている。それだけに出版社側も、電子コミックに対してどのような戦略をとるかが求められてきている。そこで続いてのトークセッションでは、出版社のデジタルマンガ戦略をテーマとして、LINEマンガを運営する側と、大手出版社の担当者が参加して議論が繰り広げられた。
集英社のデジタル事業部 部長代表の鈴木基氏は、「出版不況で特に落ち込んでいるのは雑誌。漫画雑誌は新人作家を発掘し、育て、作品を発表してヒットを作るというコンテンツを生む源泉だったが、それがなくなってしまう」と話す。それだけに、雑誌に代わりコンテンツを生み、広める新たな場として、スマートフォンにかける期待は年々大きくなっているようだ。
だが出版社にとっては新作だけでなく、多くの旧作品を抱えており、それらをいかに活用できるかも重要なテーマとなる。小学館のデジタル事業局 コンテンツ営業室 副課長の飯田剛弘氏は、「紙のコミックでは新刊への依存度が高くなるが、デジタルはアーカイブビジネス。多数のタイトルをいかに目に触れさせ、買ってもらうかは重要だ」と話しており、旧作の掘り起こしで多くの実績をもたらした、LINEの無料連載がもたらす影響は大きいと評価している。
しかしながらスマートフォンは、紙の雑誌と比べると画面が狭く、出版社が抱える多数の作品を、1つ1つアピールしていくのは難しい。そこで講談社の販売局次長である吉村浩氏は、「夏☆電書」「冬☆伝書」といったキャンペーンを打ち出し、多数の作品をまとめてアピールすることにより、電子コミックの存在感を高める取り組みを進めていると話す。
LINEマンガの事例を見ても、確かに旧作に関しては大きな成果を生み出しつつあるが、一方で従来雑誌が大きな役割を果たしてきた、新しい作品をヒットへと結び付けることに関して、電子コミックではまだあまり大きな成果が出ていないように見える。実際、飯田氏は「デジタルの書き下ろしでどうヒットを出すかは課題」と話しており、自社でも試行錯誤を繰り返しているそうだ。
若い作家を育てるプラットフォームとして漫画アプリに期待する意見は多いだけに、LINEマンガにとってもこの点は、今後の大きな課題になるといえそうだ。そこでLINEマンガは集英社とコラボレーションし、夏頃に少女漫画の新人賞を実施する。鈴木氏は「ジャンルは緻密に決めず、次世代のデジタルに強い作家を募集し、新しい才能をオンラインで生み出すことにトライしたい」と、新人賞に強い期待をかける。
一方、LINEマンガのプラットフォームを運営するメディアドゥは、今後どのような点に力を入れることで、出版社の要望に応えようとしているのだろうか。同社取締役の溝口敦氏は、その1つとしてAIを活用したレコメンドエンジンの刷新を挙げている。
「機械的なレコメンドではなく、友達に『何か面白い漫画ない?』と聞いたら『この漫画が面白いんじゃない?』と返してくれるような、個々の特性に合ったレコメンドする仕組みを追求していかなければいけない」と、溝口氏は新しいエンジンの構想について話すが、その精度を上げるには漫画のメタデータの拡張が必要だという。タイトルや作者などだけでなく、より作品内容に踏み込んだデータが必要と溝口氏は考えているようで、そうしたデータを得るためにも、今後はいっそう出版社との密な協力関係が求められる。
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