ソフトバンクSIMを提供する日本通信の勝算は? 福田社長に聞く:MVNOに聞く(3/3 ページ)
MVNO市場を切り開いてきた日本通信は、MVNE戦略に軸足を移しつつ、ソフトバンク回線を使ったサービスも提供。8月16日には音声SIMの提供を始めた。同社はソフトバンク回線の目標を「100万」に定めているのが、勝算はあるのだろうか?
ソフトバンクの接続料問題
―― 回線で差別化するのは難しいのかもしれませんが、現状では、ソフトバンク回線ならではの部分が、あまりサービスに反映されていないような印象もあります。料金もドコモのネットワークを使ったものより高いですし。
福田氏 出していきたいですね。1つは接続料、もう1つはHLR/HSSがどうなっていくかだと思います。その2つが変わらない限り、ドコモでやっているのと大きな違いは出せません。接続料に関しては、いよいよ算定がおかしいとなってきました。最初に算定式を書いたのは(ドコモと協議をしていたときの)私ですが、あのときから接続料にはおかしなギャップがありました。そこが適切になるように是正していく。これは総務省にもずいぶん言いましたし、これから取り組んでいただけそうなお話もいただいています。
そもそも、ドコモとソフトバンクを比べたとき、本当にドコモの方が原価が安いのかと言われれば、かなり疑問があります。今はざっくり言って1.5倍程度の開きがありますが、その前は3倍でした。その意味では、安くはなっているのですが……。
―― ただ、一気に安くなりすぎるのも不思議な話で、かなり裁量でどうにかなるような印象も受けまいた。
福田氏 表向きは算定に誤解があったということかもしれませんが、3倍離れていたときは、実際、誰も接続しようとしませんでした。うちもあの値段だとやってくれといわれても、分かりましたとはいえません。次の年に1.5倍ぐらいになり、やっとという感じです。
―― 算定式の数字にブレがあるような気もします。
福田氏 確かに言葉では定義されていても、どこまでを実際の数字として反映させるかでブレはあります。キャリアごとに、考え方のギャップもあります。言葉1つ取っても、定義が違ったりしますからね。そこをもっと精緻にしていく。そうすれば、どこかで数字も共通になります。
―― その差が、料金プランにも反映されているということですか。ソフトバンクの方がやや高いのはそのためでしょうか。
福田氏 ダイレクトに反映させたわけではありませんが、反映はされています。おかわりSIMだと1GBを超えたときの料金が1GB、250円でしたが、ソフトバンクは350円です。これも、比較的安めに振って、ようやく350円にできました。そうしないと、(エンドユーザーに提供する料金として)高くなりすぎてしまうからです。
―― 接続料が安くなれば、それが反映されるのでしょうか。
福田氏 もちろん、値下げの余地はあります。それでも、使った分だけという料金プランになっているのは、良心的だと思います。
日本通信の“独自SIM”も提供する
―― MNOの残り1社、KDDIはいかがでしょうか。
福田氏 ソフトバンクは(MVNOが)ゼロだったので、どうにかしないといけないというのがありました。ただKDDIも申し込んでやっていくと2月にお話しています。実際の交渉状況は厳しいNDA(非開示契約)があるのでご案内できませんが、協議自体は進めています。
―― 仮に3キャリア全てを提供するとなると、MVNO初ですね。
福田氏 そうですね。販売店サイドも、3キャリアをそろえなければいけないというのがあります。今までは、格安SIMにしたくても、ソフトバンク(の端末)だと選択肢がありませんでした。それがようやく解消し、売ることができるようになった。販売店からすると、お客さまが何を使っていても販売できることが重要ですからね。そういった意味では、3社がそろうことが大事で、auも追加したいと思っています。
―― お話をうかがっていると、まだまだMVNOとしてやっていけるのではという気もしました。
福田氏 止めたわけではないですから(笑)。日本通信でしかできないことは、どんどんやっていく。このスタンスは変わっていません。今回は、他社がやっていないソフトバンクをやりました。細かなところでは、料金プランもよりフィットした形にできると思います。お客さまサイドに立った料金作りは、もう少し進めていきたいですね。また、日本通信として、独自SIMを作ることも長年準備しています。これも私どもがやらなければいけないことです。法人向けですが、デュアルネットワークのご要望もいただいています。MVNOがこうあるべきということは、15年間やってきました。ビジョンを率先して出すところに、価値があると思っています。
―― 先ほどもお話が出ましたが、HLR/HSSはいつごろ、どういう形になりそうでしょうか。
福田氏 うちの独自SIMに関しては、多くの方が予想していない形でローンチしようと思っています。これは、来春ぐらいまでにどうにかしたいと思っています。今はそんな状況です。
―― ドコモ網で、ということでしょうか。
福田氏 SIMを使って何をしたいかですが、SIMは強力な認証基盤だと思っています。通信事業者は通信の認証として使っていますが、認証は通信以外にも必要です。そういう部分を先に出していきたいですね。その意味では、普通のものではありません。そこで格安SIMが出てきても、エンドユーザーにとっては何も変わらないですから。独自SIMでは、そこを目指しているわけではありません。
取材を終えて:独自SIMの中身に注目
ようやく音声通話まで出そろったソフトバンク回線のMVNOサービスだが、日本通信としても十分な手応えを感じているようだ。インタビューでは福田氏が最大900万という規模感に言及していたが、今はまだ大きな市場があるということなのかもしれない。
一方で、SIMロック解除が全端末で義務化されていることを考えると、その数は今後、確実に縮小していく。日本通信も何らかの手を考えているようだが、そのときを見すえたサービスも必要になりそうだ。福田氏が来春始まると語っていた独自SIMは、いわゆる格安SIM以外のサービスに重きを置いているようだ。詳細は明かされなかったが、どのようなものになるのかは注目しておきたい。
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