ビジョンなき“携帯料金値下げ”は「サービス品質」と「国際競争力」の低下をもたらす(2/3 ページ)
内閣総理大臣に就任した菅義偉氏は、「日本の携帯電話料金世界で最も高い」と発言し、電波利用料の引き上げにも言及。寡占が指摘されている携帯大手3社によりいっそう強い圧力をかけて料金引き下げを求めるとみられている。市場寡占は望ましいものではないが、値下げによる弊害も考えられる。
もっとも、楽天モバイルの参入もあって、MVNOや「Y!mobile」「UQ mobile」といった携帯大手のサブブランドが提供する低価格帯のサービス競争は、ここ数年の間にかなり激化しており内容充実も進んでいる。最近では楽天モバイルと同程度となる3000円前後の料金で10GBの高速通信が利用できるなど、スマートフォンのヘビーユーザーでなければ十分満足できるサービスが増えている。
競争がないといわれている携帯業界だが、月額2980円で自社エリア内であればデータ通信し放題となる「Rakuten UN-LIMIT」を打ち出す楽天モバイルの本格参入によって、低価格帯のサービスは非常に激しい競争環境下にある
だがそうしたサービスに、大手3社のメインブランドからユーザーが大量に流出しているかというとそうでもない。楽天モバイルは基地局整備遅れやトラブルが相次ぎ大手の対抗にはなり得ておらず、サブブランドの契約数は増えているものの、メインブランドを抜いて主流になるには至っていない。MVNOに至ってはサブブランドと楽天モバイルの競争に押され、契約数を減らすところも出るなど苦戦が続いている。
消費者が料金より重視しているサービスの“質”
こうした動向を見るに、行政がどんなに乗り換えやすい環境を整えても、多くの消費者は「携帯料金が高い」と言いつつ料金を見直したり、より安価なサービスの利用を検討したりするといった行動を起こさないことが、競争停滞の主因であることが見えてくる。
その理由を考えると、行きつくのはサービスの“質”であり、そのことを示しているのが、ICT総研が2020年7月16日に公表した「2020年 スマートフォン料金と通信品質の海外比較に関する調査」である。ちなみにこの調査は、先に触れた「競争ルールの検証に関するWG」の第7回会合でも提出されているものだ。
この調査で用いられている、英国のOpensignalが実施した世界主要各国の通信品質調査を見ると、日本の4G接続率は6ヵ国の中で最上位、4Gの通信速度も韓国に次ぐ高水準と、非常に高い品質を持っていることが分かる。さらに同社が日本のスマートフォンユーザー1000人に実施したWebアンケートによると、「料金満足度」でポジティブな回答をしたのは全体の約4割だが、「サービスエリア満足度」「通信速度満足度」はそれぞれ約7割、約6割に達するなど、ネットワークの質に対する満足度の高さを見て取ることができる。
また携帯大手3社はそうしたネットワーク品質の高さに加え、全国各地にショップを構え、店頭でのサポートや、シニア向けのスマートフォン教室を無料で実施するなど、諸外国と比べてもかなり充実したサービスを提供して安心感を与えていると感じる。消費者がそうしたネットワークやサービスの質に満足しており不満が少ないからこそ、料金が高いと思っても安価なサービスへの乗り換えを検討するに至らないのではないだろうか。
大手3社のメインブランドの料金を単純に引き下げてしまえば、コスト削減のためインフラやサービスにかける投資を減らし、満足度の高いサービスの質を下げるという選択を取りかねず、消費者からしてみればそちらの方が大問題だ。サービスの質という視点が抜け落ちたまま強硬策で料金引き下げをしたとしても、消費者の真のニーズをつかめず従来と同じ失敗を繰り返してしまうのではないだろうか。
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