Lightning廃止の布石? iPhone 12で「MagSafe」を試して感じた可能性(3/3 ページ)
「MagSafe for iPhone」は、ワイヤレス充電を扱いやすくすると同時に、将来性の拡張性も兼ね備えた技術だ。今後はLightningに代わる、標準的な充電手段になる? ただしユーザーの利便性を考えると疑問符が付く面もある。
将来の拡張性への期待も
MagSafeで装着するカードウォレット「MagSafe Leather Wallet」も発売された。これはiPhone 12シリーズの背面に装着して、板状のカードを持ち歩けるレザーウォレットだ。このアイテムではMagSafeの磁気がカードにダメージを与える恐れを防ぐため、内部にシールド機構を入れている。
Appleは、MagSafeの充電機構をサードパーティー向けにライセンス提供することも発表しており、Belkinなどの周辺機器メーカーが対応を表明している。
Appleの製品ラインアップで手薄な製品の拡充にも期待できそうだ。例えば「MagSafe対応のモバイルバッテリー」があれば、スマホとバッテリーを一体で持ち歩ける、取り回しのよさを生かした製品になりそうだ。MagSafe非対応機器での位置合わせのシビアさという弱点を克服したサードパーティー製品にも期待したい。
MagSafeの拡張性は、充電やケースといったジャンルにとどまらないかもしれない。MagSafeデバイスには非接触通信のNFCチップが内蔵されており、どのようなデバイスを接続できるのか、iPhoneへ通知する機能がある。例えば外付けカメラやモバイルプリンタ、ゲームコントローラーのペアリングに使うこともできそうだ。
これはモトローラが展開している「Moto Mods」のコンセプトに近い。Moto ModsはAndroidスマホの背面に専用の接点を設け、周辺機器を付け外しできるというシステムだが、MagSafeでも同じような使い勝手が実現できるだろう。
iPhoneの強みは全てがプレミアムモデルで、年間数億台という規模を販売していることだ。独自の規格を導入する際には、これは大きな強みとなる。
時代遅れになったLightningコネクター
MagSafe for iPhoneの採用は、実は将来に向けた重要な布石かもしれない。iPhoneの充電と通信に使うコネクター「Lightning」を将来的に廃止する可能性があるためだ。
Lightningコネクターは2012年のiPhone 5から導入された、Apple独自の規格だ。USB 2.0の通信プロトコルに対応しつつ、Micro USB端子よりも薄く、裏表のどちら向きで差し込んでも使えるという利便性を備えている。
しかし、薄型の端子形状を採用したがゆえに、Lightningコネクターは拡張性に限界が生じつつある。
Lightningの登場から2年後の2014年、裏表を気にせず差し込めるUSB Type-Cコネクターが標準規格として策定された。Type-CコネクターはUSB標準規格に加え、「オルタネートモード」としてさまざまな通信規格をサポートする拡張性の高さが特徴だ。伝送スピードも最新規格のUSB4では最大40Gbpsと、USB 2.0の約8.3倍に高速化している。Type-CコネクターはAndroidスマートフォンやPC、タブレットに幅広く採用され、業界標準の地位を確固たるものとしている。
一方、Lightningは伝送速度が登場時のUSB 2.0相当(480Mbps)にとどまっている。4K HDRの高画質な映像を撮影できるiPhone 12のコネクターとしては、やや能力不足な感は否めないだろう。
行政からは業界標準を採用するよう促す動きも出てきている。欧州議会では2020年1月、EUが充電器の端子の規格を統一化するための法律を策定するよう促す決議案を採決している。ただし、これはあくまで充電器側の標準規格化を意図したもので、デバイス側の端子形状までは含まれていない。
とはいえ、欧州議会の決議の根底には、スマホを買い替えるたびに充電器を購入しないで済むようにという消費者の権利擁護という理念がある。その延長線上に、スマホ側の端子規格の統一化を促す議論が今後巻き起こる可能性はある。
Apple自身、Macbookシリーズでは積極的にUSB Type-Cを採用し、iPad ProやiPad AirではLightningからUSB Type-Cへと切り替えている。しかし、iPhoneでType-Cコネクターを採用するのはAppleにとってはあまり好ましくはないシナリオだろう。なぜなら、Appleは周辺機器の認証制度を通して、少なからぬ収益を得ているからだ。
Lightningコネクターは、「Made for iPhone」のプログラムで認めたメーカーにのみ供給される。そのライセンス料は非公開だが、Appleinsiderによると、コネクター1つ当たり4ドルとされている。USB Type-Cへと端子を変更すれば、このライセンス収入はなくなってしまうだろう。
Lightningの置き換えを完全ワイヤレス化で実現?
Appleにとって、USB Type-C端子を採用するのは収益面でのデメリットが大きい一方で、Lightningコネクターは将来性に限界がある。とするとAppleが狙っているのはLightningコネクターの継続でもType-Cの採用でもなく、第3の道かもしれない。すなわち、iPhoneからコネクターを排除し、ワイヤレス化するという選択肢だ。
コネクターを排除するというと非現実的に思えるかもしれないが、既にその下地は整いつつある。初代iPhoneの登場時点では、音楽や写真などのデータはPCのiTunesから有線接続で転送するスタイルを取っていた。今ではPCとの同期はWi-Fiで完了する。iCloudとWi-Fiやモバイル通信を組み合わせれば、そもそも同期自体も必要とせず利用できるだろう。iPhoneを使っているがPCとの同期はしていないというユーザーも多いはずだ。
となると、iPhoneを端子につなぐシーンは主に充電になるが、ワイヤレスで急速充電のMagSafeがあれば、充電用としての端子も不要となる。
ちなみに、完全ワイヤレスというコンセプトを実現したスマートフォンも存在する。中国Meizuが2019年10月に発表した「Meizu Zero」がそれだ。このモデルは独自のワイヤレス充電で最大18Wの急速充電に対応し、eSIM採用によりSIMスロットもなくしている。ただし、実際に正規ルートで販売された形跡はない。クラウドファンディングサイトIndiegogoに100台限定で出品されたが、購入者が集まらず販売を断念したようだ。
AppleとしてはMagSafeによって、Lightningに代わるあらたな収益源も確保できる。周辺機器メーカーが利用するMagSafeモジュールは、Appleが独占的に販売することになるからだ。
仮にiPhoneがUSB Type-Cを採用せず、独自規格のMagSafeのみを唯一の充電方式として備えることになった場合、急速充電を利用するためにはMagSafe専用の充電器を用意する必要が生じるかもしれない。そうした意味ではユーザーにとってコスト負担が増える恐れはある。
一方で、前述したようにMagSafeは将来的な拡張性が見込める規格でもある。MagSafe for iPhoneの機能拡張とともに、周辺機器メーカーを巻き込んでどれだけ機能拡張を行っていけるのか、Appleの本気度が問われることになりそうだ。
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