「FeliCa」「音楽」「GPS」が広がった2006年──Bluetoothはいまだ低空飛行:2006年の携帯業界を振り返る(2)(5/5 ページ)
通信ジャーナリストの神尾寿氏とケータイジャーナリスト石川温氏を迎え、2006年の携帯業界を振り返る年末特別企画の第2回目。ここでは第1回に引き続き、2006年の携帯の機能のトレンドと、端末メーカーに対する今年1年の印象を語る。
不安が残るNEC
ITmedia NECは、ちょっと厳しかったですね。女子大生を集めてヒアリングなどもしているようですが(11月22日の記事参照)。
神尾 それをやっているから、彼らはだめなんですよ。厳しい言い方ですけどね。
石川 そう! もっとメーカーとしてポリシーを持って開発しないと。
神尾 自信がないからやっているんでしょうけど、商品企画でユーザーにすがったら失敗します。
石川 そうですね。非常に迷いがあるんだな、という気がします。
神尾 ヒアリングはあくまで方向性の確認でしかないので、企画者や開発者は裏づけとしてそれを見るだけで、(自分たちがいけると思うものを)確信をもって作らなくてはいけないんです。ユーザーの声に耳を傾けても、その声を信じたり振り回されてはいけない。
石川 あれは、読者アンケートを見て雑誌の企画を決めるようなものですからね。それはないでしょう。あくまで出来上がったものを見てもらって、そして、読者アンケートでどうだったか、というやり方ならまだしも。
神尾 「俺について来い!」がなきゃダメなわけですよ、メーカーは。
石川 明確なコンセプトを持って、他社にはないデバイスを積んで、このUIが使いやすいだろ、というやり方で勝負しないとダメですよ。まあ、あれがすべてではないと思いますが、ちょっとなんか、不安にさせられました。
神尾 それから、NECには新しいお客さんを呼び込もうという気概が感じられないんですよ。昔からのUIを残すのは、それはそれでいいんですが、新しいお客さんが操作で迷わないためにどうするか、ということを考えてない。
私はNECの端末で、「あれ? 文字を小さくするのって、どうやればいいんだっけ?」ってよく迷うんです。他の多くの端末には、小文字にするにはこのキー、というようにわかりやすくアイコンが付いているじゃないですか。NEC端末にはアイコン情報が少ないんですよ。そのくせクセのあるUIを使っている。NECが今やるべきことは、新しいNECユーザーを作るにはどうすればいいかを考えること。これまでのお客さんの方ばかりを見て作ってきているから、新しいお客さんがなかなかついてこないわけですよ。
石川 女子大生を集めてヒアリングというのもその典型です。女子大生といえば、かつてNECの折りたたみモデルでみんながメールをしていた頃に一番盛り上がっていた層じゃないですか。またあの層に受けるための携帯を作りたい、という気持ちが、ああいう形になっているんですよ。
神尾 今さら「女子大生に参加してもらいました!!」だと、結局、今までの路線をもう一回振り返って確認したいだけ。過去にすがりついているようにしか見えない。
石川 どのメーカーも陥りやすいですからね。昔のパナソニック モバイルもそうだった。
神尾 ストレートの“P”から変わったときには、かなり苦労していましたね。そして、今のスタイルを築き上げたわけだし、三菱だって、結局折りたたみに行かなかった。そしてそれが今、自分のカテゴリーを作って奏功しているわけじゃないですか。
折りたたみの世界は過当競争で厳しくなっていて、競合他社は折りたたみの変異系で新しいブランディングをしてきている。NECだけがこれまでと変わらない折りたたみをやっているから古く見えちゃうんですよ。変化しないと来年もきついかな、と思いますね。
石川 ソニー・エリクソンからクリエイティブプロデューサーをやっていた佐藤敏明氏を引っ張ってきて、クリエイティブスタジオのようものを作っているので、そこがうまく回って端末が出てくるようになると面白いと思うし、そこに期待したいなあ。
神尾 ただ表層だけで覆い隠そうとしてはダメだと思いますけどね。それこそ、サイクロイドだとか、デュアルオープンじゃないですけど、今までの折りたたみスタイルをまったく変えるような、機構まで踏み込んだデザインの変化だったらいいと思います。見た目だけ変えました、エッジの付け方を変えました、アールの付けかたを変えました、カメラの位置を変えました、だったら意味がありません。むしろ、今までのNECユーザーに「大嫌い、こんなのNECの端末じゃない」と言われるくらいの覚悟でやらないと。このままではズルズルと行ってしまう可能性もありますよ。
富士通はデザイン、東芝は日本語変換が惜しい
ITmedia では、他のメーカーも。富士通、東芝あたりはどうですか? 富士通は「らくらくホン」シリーズが成功しています。
石川 富士通は、らくらくホンで十分でしょう。
神尾 でも、富士通端末はいいですよ、中身は良くできています。
石川 ヨコモーションねえ……
神尾 富士通の端末は指紋認証を付けているおかげでビジネスユーザーが多いのに、なんでビジネスユーザー向けのデザインにしないのかが謎ですね。これからのデザインって、女性を向いてはダメで、男性に向かなきゃダメなんですよ。なぜなら、女性が男性化しているから。どちらかというと、今の女性って男性的なデザインを好むんですよ。
ITmedia ピンクで可愛くて、というのはもうダメってことですね。
神尾 それはおじさんが会議室で妄想する女の人の好みでしょう。もしくは女性の一面的な部分しか見ていないと思います。でも携帯電話は生活のフルタイムで接するものだから、フルサイズの女性と向き合わなければならない。その総体としての女性で考えると、主流派の好みは「中性化」もしくは「男性化」の傾向にある。
ITmedia 女性でW44Kの黒を持っている人などもよく見かけます。
神尾 まあ話が脱線しましたけど、富士通の“F”はもう少しかっちりした方向にもう一度振り戻していいと思います。中身がいいだけに、もったいない、という気がします。
ITmedia 東芝は……
神尾 ケチが付いたのはハードディスク携帯のW41Tですよね。
ITmedia 端末の数はいっぱい出していますけれど。
石川 そうそう、数だけは出すよなあ。
ITmedia 「neon」は人気がありましたよね。
神尾 東芝に言いたいのは、モバイルルポをまともにしてほしいってことですね。使っていると、ときどき芸術的な誤変換をしてくれることがあって感動すら覚えますよ(笑)。日本語変換は顧客満足度を左右する重要なUIなんです。それ以外の使い勝手は、東芝端末はそれほど悪いとは思いません。UIは万人向けだと思いますし。
ITmedia フォントを変えられるなど、ちょっと面白い工夫がありますよね。「くーまん」も復活していますし。
神尾 Bluetoothを地道に積んでくれていますし……惜しいのは日本語変換なんだよなあ。
石川 でも、東芝って何気にシェアが高くなっていますよね。
神尾 それは法人で売っているから。Bluetoothを積んでいてオーソドックスな仕様の端末が多いから、法人がらみで売っているんですよ。端末も安くなっているし、トヨタケータイもあるし。
石川 「TiMO」ね。東芝の「T」じゃなくて、トヨタの「T」みたいな。
神尾 トヨタ社員の需要、トヨタの販売力で考えると、それなりの数は出ますよね。
うまく住み分けされているカシオ計算機と日立製作所
ITmedia カシオ計算機と日立製作所はどうでしょう。日立はワンセグ端末のリーディングメーカーの1つと言えますね。来年はどう展開していくでしょうか。
石川 カシオと日立は非常にうまく住み分けがされていて、賢いなと思いますね。
神尾 二人三脚って感じですよね。
石川 ホントにそう。あの関係をNECとパナソニック モバイルがちゃんと築けるか、というのが見ものかな、と思います(7月27日の記事参照)。
神尾 (NECとパナソニック モバイルは)プライドが高いから無理かなあ……
石川 そうですねえ。
神尾 「カシオ・日立」は合従連衡で一番成功した例じゃないですか。
石川 だと思いますよ。
神尾 お互いの弱いところがきれいに補完されましたからね。うまく合わさって、使いやすくなっている。どちらもバランス感が絶妙なんです。
石川 で、ウチはペンギンやる、ウチはワンセグやる、みたいに(笑)
神尾 今年のNO.1キャラクターは“あのペンギン”ですね(笑)
第3回へ続く
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