その意気込みは“龍の如く”――ウィルコムが「XGP」を限定スタート(2/2 ページ)
ウィルコムは法人を対象に都内一部地域などでXGP(次世代PHS)使った限定サービスを開始する。ウィルコムの喜久川社長は「WILLCOM COREという龍にXGPという瞳が描かれた」と期待を寄せた。一般向けの本格サービスは2009年秋を予定している。
XGPとモバイルWiMAX 同じ部分と違う部分
XGPは、モバイルWiMAXやLTEとともにBWA(Broadband Wireless Access)として期待される次世代の通信技術の1つ。喜久川氏はXGPの特徴を改めて説明し、その利点を強調した。例えば高速化に伴う回線容量の増加については、現行PHSから採用されているマイクロセルで解決できると胸を張る。
「これまでの2Gや3G、PHSといった端末はケータイの形をしていて、それほど大きな回線容量は必要なかった。例えば携帯電話は月に10Mバイト程度しか通信を行わない。しかし、ブロードバンドがワイヤレスになるということはどういうことか。ADSLやFTTHは月間10Gバイト程度の通信が発生している。これは携帯電話の約1000倍の数値だ。これを従来のマクロセルでさばくのは現実的ではない。隣接する基地局が互いにカバーするマイクロセルでないと吸収できない」(喜久川氏)
ウィルコムがBWAの実現に自信を見せるのは、マイクロセルに加え、オールIP化されたインフラと長年蓄積したTDD技術という3つの資産があるからだ。現在ウィルコムは、全国に約16万局のマイクロセルを設置。そのほとんどは独自のバックボーン設備「ITX」によってIP化されており、無線部分がPHS(204〜800Kbps)からXGP(20Mbps以上)に高速化しても十分対応できるという。また、PHSは上りと下りの通信を同じ周波数で行うTDD方式を採用しているため、周波数の利用効率が高いのも特徴だ。ウィルコムのようにTDD方式をマクロセルの細かい置局設計で使うキャリアはほかにない。もちろんXGPもTDDによって上り通信と下り通信を二重化している。
「OFDMAやMIMOを使っている点は、WiMAXもLTEも同じだが、XGPはTDDであり、マイクロセルを使う点が違う。ウィルコムならではの“3つの資産”は、XGPのバックボーンとしてそのまま活用できる。今風に言うならば、エコでグリーン。環境負荷が少なく、低コストでスピーディな展開が可能だ」(喜久川氏)
XGPの基地局は、既存のPHS基地局に装置を追加することで簡単に設置できる。すでに100局程度が設置され、6月には数百局が稼働するという。例えば東京駅付近では、光化している現行基地局の中から2〜300メートルおきに候補を選び、カバー範囲をオーバーラップさせて置局した。同社取締役執行役員副社長の近義起氏は、「基地局のカバー範囲をオーバーラップできるのが、PHSとXGPの特徴」と補足した。
XGPの基地局は京セラが供給し、端末はNECインフロンティアとネットインデックスの2社が開発した。NECインフロンティア製のGX000Nは、加Wavesat製のベースバンドチップとエイビットのソフトを採用。またネットインデックス製のGX000INはイスラエルAltair semiconductorのOFDMA技術が使われている。近氏は「XGPはWiMAXやLTEと技術的に似ているので、WiMAXやLTEを手がけるベンダーならその技術を流用できる。特に無線部分のチップは“2.5GHz帯でOFDMAを使う”という点がモバイルWiMAXと共通のため安く調達できる。今回提供する端末も、ほかの規格部品を流用することで、低コストかつ短期間で開発できた」と説明し、デバイス開発のハードルが低いことを示した。
なお、エリア限定サービスで貸与されるGX000NとGX000INはMIMOに対応していないが、商業サービス開始後はMIMOを利用した端末を提供することで、高速化を図る。
その実力は?
XGPはモバイルWiMAXと違い、上りと下りの通信速度が同じ点が特徴だ。発表会場ではXGP環境が用意され、ダウンロードとアップロードのデモが行われた。ファイルのダウンロードでは最大18.5Mbpsを記録し、理論値に近い速度をコンスタントに出していた。またアップロードは「チューニング中」(近氏)のため最大12Mbpsとやや遅かったが、10Mバイト程度のファイル転送が数秒で完了した。
喜久川氏は、「上りと下りで高速通信が行えるXGPは、テレビ会議など動画の送受信に強さを発揮するだろう。新たなアプリケーション開発が期待できる」とし、その1例としてカメラネットワーク構想を紹介。六本木交差点に置かれたライブカメラの映像を、XGPを使って会場に伝送するデモも行った。
映像伝送についてはフジテレビとともにニュース映像の伝送実験を行う予定で、会場内に置かれた映像機材から、伝送する様子も公開された。そのほかにもエリア限定サービスでは、XGPを利用することで置き場所を選ばないデジタルサイネージ端末の実験、鉄道・路面電車沿線や教育現場のエリア化を通じて、XGPの可能性について検証を行う予定だ。
喜久川氏は「WILLCOM COREとは、XGPだけでなく、3Gや無線LANも含まれる総合サービス。しかし、ど真ん中のXGPがないと完成したとはいえない。龍の絵に瞳を描かなかったことから『画竜点睛を欠く』という故事が生まれたが、XGPはWILLCOM COREという龍の瞳にあたるもの。瞳が入ったWILLCOM COREは龍となって天高く飛び立って行くだろう」と、WILLCOM CORE XGPの発展に期待を寄せた。
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