「IDEOS」に感じた“軽自動車的スマートフォン”という方向性:ITmediaスタッフが選ぶ、2010年の“注目ケータイ&トピック”(編集部山田編)
スマートフォンの販売が加熱した2010年。ハイスペックなモデルが続々と増える中で“軽自動車的”なスマートフォンも登場したことが、筆者には印象的なトピックだった。
2010年の携帯電話業界のトピックを考えたとき、真っ先に思い浮かぶのはやはり“スマートフォン”というキーワードだ。筆者も2010年はiPhone 3GSをメイン端末として利用し、さまざまなシーンでスマートフォンならではの利便性を感じてきた。
筆者はiPhoneを携帯電話というより“小さなPC”という感覚で使っている。例えば、フィーチャーフォンでは連絡ツールとしてキャリアメールを使っていたが、iPhoneにしてからはもっぱらGmailとTwitterでコミュニケーションをするようになった。家ではPCで、外に出たらiPhoneで、同じコミュニケーションサービスを使い続けている。
さらに、Evernote、Dropbox、SugarSyncといったクラウドサービスをPCとiPhoneの双方で活用するようにもなった。一番多用しているDropboxには執筆中のテキストデータを置いて、いざとなればiPhoneからもテキストデータを編集できるようにしている。App StoreにはDropboxと連携するテキストエディタアプリが複数あり、その中から筆者は値段が手頃(230円)だった「Nebulous Notes」というアプリを購入して使っている。スマートフォンの小さなソフトウェアキーで長文を入力するのはつらいが、PCで執筆した原稿に加筆したり、街中や電車で思ったことをメモする程度ならストレスは感じない。
こんな風に、自分が普段PCで使っているサービスをシームレスにモバイル環境で利用できるのが、筆者の感じるスマートフォンの利便性だ。ケータイでしか使えないメールから、ケータイでも使えるメールへ。ケータイでしか見られないスケジュール帳から、ケータイでも見られるスケジュール帳へといった具合に、筆者のモバイルライフはシフトした。
“小さなPC”の世界を“軽自動車”でも楽しみたい
マイクロソフトが「3スクリーン+1クラウド」を掲げ、AppleがApple TVを戦略的な価格でリニューアルし、GoogleがAndroidを幅広いデバイスに組み込もうとしている状況を見ていると、デバイス間のサービス連携はこの先さらにユーザーにとってなじみ深いものになっていくように思われる。そして、そうした世界に触れる最初のデバイスとして、スマートフォンが今、普及フェーズに入りつつあると感じる。今年の秋冬商戦を境に、携帯電話の売れ筋は様変わりした。今、携帯電話の販売ランキングで上位を占めているのは各キャリアのスマートフォンだ。ドコモやKDDIが積極的にAndroid端末のプロモーションを展開し、店頭の目立つ場所にディスプレイされるようになり、その上端末の価格も値引きされているのだから、売れるのもうなづける。
量販店の売り場を見ていても、表示価格の手頃さもあって幅広い客層がスマートフォンを検討しているように思う。ただ、端末そのものが安く手に入るとしても、スマートフォンは月々の利用料金がフィーチャーフォンの平均的なそれよりも高くなりがちだ(だからこそ、キャリアも値引きキャンペーンを行う)。一般的な契約では、パケット使い放題で月々8000円前後を支払うことになる。ライトユーザーにとっては、なかなか高いハードルである。スマートフォンの“小さなPC”の世界に魅力を感じた筆者としては、この世界を楽しむ手段が“松竹梅”と選べるといいなと思うのだ。
日本で販売されているスマートフォンの多くは、高速通信が可能なインフラとハイスペックな端末とをセットにした、“大排気量のスーパーカー”であり、万人に向いている製品とはいえない。どのモデルもパワフルで速度が出る分、維持費が高い。“小さなPC”の世界をもっと燃費よく探検する方法はないのか――そう思っていた時に、日本通信が「IDEOS」の販売を発表したのである。
IDEOSは、ワールドワイドに販売されているHuawei製の安価なAndroid端末で、日本通信が自社の新たな通信サービス向けに調達を始めた。詳しい解説は過去記事に譲るが、日本通信の通信サービスとIDEOSとの組み合わせは、まさに“小排気量の軽自動車”と形容するのにピッタリなものだ。端末価格は、2年縛りやSIMロックといった制約のない状態で2万6800円。そして、日本通信が用意した通話とデータ通信のプランに加入すれば月換算にして2973円で運用できる。
なんせ非力な軽自動車だから、パフォーマンスは期待できない。画像の多いWebページを開くにはかなり時間がかかるし、そもそもディスプレイの解像度がQVGA(240×320ピクセル)しかないので、Webサイト全体を表示すると文字がつぶれたりする。平地はそれなりに走れるが、坂道を登るときはグッとつらくなる感じだ。
でも、スマートフォンに最適化された画面は快適に見られるし、GmailやTwitter、Facebookのアプリも普通に使えるし、Dropboxなどのクラウドサービスも利用できる。その気になればWi-Fiルーターにもなる。価格相応のクオリティで“小さいPC”の世界に飛び込める。これはなかなかありがたいことだと思う。
大手キャリアが続々とスーパーカー的スマートフォンのラインアップを強化する一方で、IDEOSという対極的な軽自動車が姿を見せたことが、筆者にとって興味深かった2010年のトピックだ。日本通信の提案がどれだけ支持を集めるかは分からないが、自分の身の丈に応じてトータルコストをコントロールできる方向性はユーザーとして歓迎したい。2011年は、維持費も端末価格もミドルクラスの、松竹梅の竹のようなスマートフォンが登場しないかと期待している。
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