コスト削減で増収増益のドコモ、設備投資を減らし新事業に活路
スマート領域の拡大とコスト削減前倒しで利益を確保したドコモ。通信事業への設備投資は減らし、新事業に活路を見いだす。
NTTドコモが10月30日に発表した中間決算は、営業収益が前年同期比1.9%増の2兆2150億円、営業利益が同15.8%増の4626億円の増収増益という結果だった。上半期の好調を受け、通期の業績予想を営業利益で300億円、純利益も200億円の上方修正を行った。
同社の加藤薫社長は増収増益の要因について、「昨期は1000億円の減益だった新プランが、着実に利益を生み出すようになった」と説明する。直近の新プラン契約者数は2378万件と、前年度から2.5倍の増加。料金を定額制を導入したことで音声収入が一時減収となっていたものの、加入者が増えたことでマイナス分を取り戻している。データ料金は月間5GバイトのMパック(月額)以上を選ぶユーザーが8割に達し、全体の4割が追加チャージを利用するなど、利用の拡大が顕著だ。
回線の純増数も190万件で前年比で1.6倍の増加となった。番号ポータビリティ(MNP)の転出は18万件から4万件へと8割も改善。端末の総販売数、スマートフォンの販売数も増加傾向にある。端末ラインアップが好評なことや、「いわゆる不健全なキャッシュバック」(加藤社長)をしないものの、要所要所の割引キャンペーンが浸透したことがその要因だ。
加えて、固定通信事業の「ドコモ光」、コンテンツビジネスや金融・決済代行、通販子会社の利益などを合わせたスマートライフ領域が業績をけん引した。特に映像配信サービスの「dビデオ」、そして決済代行の活用が進んでいるという。加藤社長はスマートライフ領域の増益分のうち、3割程度が決済関連に当たると明かす。
ドコモは年末にはポイントサービスの刷新と、パートナー企業との連携強化も控えているが、これもスマートライフ領域の伸び代を期待してのものだ。また生命保険の取り扱い開始も、金融サービスの強化という将来に向けた布石といえるだろう。
加藤社長は増収増益について、「利益回復を目指す中期目標に向け、順調に推移している」というが、死角がないわけではない。回復傾向にある通信事業はセグメント別の売上が減っており、コスト削減で利益を確保する構造だ。
それも前倒しを進めており、業績予想の修正では設備投資額が当初の6300億円から300億円減った。ドコモは3月からLTE-Advancedによる「PREMIUM 4G」を開始し、対応都市を広げている。この10月からは、下り最大300Mbpsのサービスも開始した。LTE基地局も年度末までに13万局へ広げる計画だ。「技術部門から、(修正後の)6000億でも6300億と同じ効果を出せると報告を受けている」(加藤氏)とのことだが、現場では相当な効率化が進んでいるのだろう。
コスト削減は設備投資だけでなく、マーケティングや研究開発、社内システムのなどでも取り組まれている。例えば、端末販売数は伸びているが機種ごとの調達数が減っており、粗利が減少するなどしているという。またスマホの買い替えサイクルも以前の24カ月から、29〜30カ月と約半年ほど延びた。多機種展開を維持し、買い換えを促進するという路線のままでは、規模が拡大しても利益を生み出しにくくなってきた。
さらに、端末販売が伴わないMVNOの回線が増えている点も課題だ。純増数には寄与するもが、他社の回線サービスとなれば市場では競合相手でもある。回線の卸価格単価には「適正な利潤」がのせられているが、その額は年々減っている。
さらに政府主導による料金の見直しが進めば、スマートライフ領域のウエイトはますます増えるだろう。総務省のタスクフォースでは、公平性の面から、より小容量プランの設定を求める声が挙がっている。まとまったデータ収入が見込めなくなれば、動画や音楽の配信、クラウドの利用など、大量のデータ通信を促進するコンテンツ・サービスで売上と利益を確保するしかない。
iPhone販売の遅れからMNPでの苦戦が続いたドコモ。iPhone市場への参入から2年がたち、流出した顧客が戻ることで増収増益の経営体質を取り戻すことができ、顧客満足度調査でも1位を獲得した。しかしその利益構造は従来と異なり、回線+端末だけでは物足りないものに様変わりした。
決算会見では、減った設備投資分の使い道についての質問があり、加藤社長は「主に投資、他社とコラボするための資本参加や新事業のために使う」と回答した。配当の増額や自己株式の取得など、株主還元にも力を入れるという。通信事業の成長が見込めなくなってきた昨今、ドコモの経営多角化がますます進みそうだ。
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