“生活を変える”コンセプトに合致――トリニティが初スマホにWindows 10を選んだ理由:SIMロックフリースマホメーカーに聞く(3/4 ページ)
デジタルガジェットのアクセサリーメーカーとして知られるトリニティが、Windows 10 Mobileスマホ「NuAns NEO」を開発した。なぜ、スマホに参入するのか。なぜ、評価が定まりきっていない新OSを採用したのか。同社の星川社長から狙いを聞いた。
ODMを活用しつつも「ゼロベース」で開発
―― ODMを使っていつつも、ゼロベースで開発したということですね。
星川氏 ODMに行くと、「こういうものや、こういうものがあって、これはこういったスペックで、見た目は変えられる」という話になります(※)。ですが、われわれは、「いやいや、それはいりません。われわれの考えている仕様は、これです」と言いました。
※ODMは、端末の開発期間の短縮とコスト抑制を目的として、仕様をある程度固定した「レファレンス(参考)モデル」を用意していることが多い。レファレンスモデルを活用すれば、委託者は最低限の時間と出費で「オリジナル」端末を作ることができる
すると、ほとんどのところに断られてしまいました。今回、一緒に作ってくれたところが、唯一(引き受けてくれたメーカー)ですね。やったことはないけどやってみようと、賛同していただけました。やったことがないと「できない」と言いがちですが、それを「やってみよう」と組んでくれたのです。その出会いも重要で、もし断られていたら、今回のようにゼロから設計するのは難しかったかもしれません。
ゼロから作っていなければ、(本体下部の端子などの)位置を全部そろえることなんてできませんからね。NFCも(レファレンスモデルでは)やったことがないという会社ばかりでしたし、USB Type-Cもそうです。
―― 確かにUSB Type-Cまで、となると実績のある会社は少なそうですね。ましてや、レファレンスモデルをそのまま使ってしまうと、実現が難しそうです。
星川氏 パーツを買ってきて、ガチャっとはめるだけではないですからね。(採用する)会社が増えてくれば別ですが、まだコストも高い。コネクタだけでなく、中(基板やチップセット)もそうです。
また、薄さ競争をリセットしたいというのもありました。MWCを回っているときも、(他社は)「iPhoneより薄い」ということをよく言われましたが、それの何がいいのかよく分かりませんでした。逆に薄さに行く必要がなければ、そのぶん、バッテリーを多く入れられます。そうすると、「Quick Charge 2.0」(Qualcommの超急速充電技術)のようなテクノロジーは入れたい。さらに、これから必ず普及するものということで、九分九厘これになるだろうと思い、USB Type-C(端子の採用)を決めました。
―― とはいえ、ODMにとっては、それがコスト増の要因にもなってしまいます。そこを飲んでもらったということでしょうか。
星川氏 もちろん、われわれも開発費は負担しています。とはいっても、これをやるだけでは、彼らもペイできるわけではないと思います。そこは、チャレンジしたことを他で生かすのではないでしょうか。例えば、USB Type-Cなら、他で使ったり、最終的にリファレンスモデルに入れたりもするのだと思います。
―― 細かな点では、Wi-Fi(無線LAN)もミッドレンジだと省かれがちな5GHz帯(IEEE 802.11ac/a/n)に対応しています。こうした点も、開発が大変だったのではないでしょうか。
星川氏 開発もそうですが、日本では技適も別に取らなければならず、検査費用も含めて高くなってしまいます。コストが上がってしまうので、(結果として)ハイエンドラインにしか乗らなくなる。ただ、何だかんだいっても、今は2.4GHz帯がまともに使えなくなっています。マンションでも、みんながアクセスポイントを置いていますからね。そこから逃げ出したいというのはありました(笑)。
―― 逆に、泣く泣く落とした機能もあったりするのでしょうか。
星川氏 それを答えるのは、ちょっと難しいですね。次に何を作りたいのかが、バレてしまいますから(笑)。
おサイフケータイに対応できない現実から生まれた「ケーススロット」
―― では、個別にうかがっていきます(笑)。まず、おサイフケータイ(モバイルFeliCa)はどうでしょう?
星川氏 最終的にはやれないという判断をしましたが、フェリカネットワークスさん(おサイフケータイのライセンスを付与している会社)とは、相当ミーティングもしています。現状の取り組みや、現在の可能性を考えました。できるならやりたいですし、環境としてもできるところに近くなっています。
1つは、もともとキャリアサーバを経由して(おサイフケータイにおけるオンライン通信を)やっていたところが、フェリカネットワークさん自身がサーバを運用するように変わりました。これによって、ソニーモバイルさんや富士通さん、シャープさんのAndroid端末は、SIMロックフリーでもおサイフケータイを使えるようになっています。
ただ、現状ではSuicaが使えません(取材時はSIMロックフリースマホでのモバイルSuica対応は発表前)。また、おサイフケータイにはAndroidという土壌があり、アプリを出してくれるプロバイダーさんがいます。そんな中で、Windows 10 Mobileで、しかもまだ出荷されていないものに対して、JR東日本さんが動くはずもない。仮にハードウェアとしてできても、サービスやアプリが絶望的になります。
―― ICカードを本体内部に入れられる仕様にしたのも、そういった現状を踏まえてのことだったんですね。
星川氏 実際、改札でじっと観察していると、おサイフケータイで電車に乗っている人は意外と少ない。(筆者のような携帯電話の動向を追っている)記者の皆さんは設定まで簡単にやれるかもしれませんが、(一般的には)なかなか難しいのだと思います。(カードタイプの)WAONやnanacoも、がんばって発行枚数を伸ばしています。であれば、こちらが使えた方がいいという考え方もあります。
―― ICカードを入れられるのは、確かにありそうでなかったですね。ここはケースメーカーとしての経験が生きた部分でしょうか。
星川氏 多分、普通のメーカーさんだと、そういう発想にはならないんだと思います。
―― ちなみに、ケースにICカードを入れる場合は、電波の干渉を防止するシートを貼ったりしますが、NuAns NEOの場合はいかがでしょうか。
星川氏 私も技術的に詳しいわけではありませんが、バッテリーの外側のラミネートされている金属と干渉していて、ケースと本体との間に防磁シートを入れるようなっています。NuAns NEOでは、バッテリーとケーススロットの間に、最初から防磁シートを挟んであるので、新たに貼る必要はありません。実際、自分もこれでピっとやってみていますが、問題なく使えています。
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