「小さい」というあらがいがたい魅力――iPhone SEという都会派プレミアムコンパクト(1/2 ページ)
iPhone SEは、大型化から小型化への揺り戻しを担うモデルだ。大型化という市場全体の流れに対して、“プレミアムコンパクト”という新カテゴリーを作ろうとしている。そんなiPhone SEの使用感をリポートしたい。
“市場ニーズの拡大”は、時として“サイズ拡大”と同義になる。
それが顕著なのが、クルマの世界。例えば、BMWの3シリーズを代表とする「Dセグメント」の今の標準サイズは、10年前は5シリーズなどその1つ上のクラスである「Eセグメント」の標準的なサイズだった。快適性や利便性を求めるユーザーの声に応えていくことで、ジリジリとサイズが拡大していったのだ。
スマートフォンの世界でも、同じことがいえる。アプリの高度化やクラウドサービスの利用、YouTubeなど各種動画サービスの普及など、その活用範囲が拡大したことにより、より大きな画面と万能性を求められるようになった。クルマの標準サイズが拡大し、より大型で万能なSUV(スポーツユーティリティビーグル)が人気を博したように、スマートフォンもまた“大型化”の波にさらされたのだ。
しかし、揺り戻しもある。なぜなら、大型化によって損なわれる「本来的な使い勝手のよさ」もあるからだ。クルマでいえば都市の狭い路地でもためらうことなく入り込める取り回しのよさであり、スマートフォンでいえば片手でさっと取りだしてそのまま使える気軽さだ。
iPhone SEは、まさにその「揺り戻し」を担う新モデルだ。現行のフラグシップであるiPhone 6sと比べても遜色ない性能と高級感を持ちながら、iPhone 5sと同じサイズを維持。大型化という市場全体の流れに対して、“プレミアムコンパクト”という新カテゴリーを作ろうとしている。iPhoneのラインアップ戦略の中でも、今後の市場トレンドをさぐる探査針だ。
では、そのiPhone SEはどれだけ魅力的な製品に仕上がっているのか。実際の利用を元にリポートしたい。
左からiPhone SE、iPhone 6s、iPhone 6s Plus。こうして見ると、サイズの差は歴然。それでいながら、iPhone SEの基本性能が6sシリーズとほぼ同等というのが一番の注目ポイントだ
片手で意のままに操れる心地よさ
人馬一体。これは自動車の評論において、“意のままに操れる”ことを現す最上級の褒め言葉だ。それをひもときたくなるほど、iPhone SEの使い勝手は心地よい。iPhone 6シリーズでサイズ拡大するまではそれが当たり前だったのだが、そこに立ち返ると、「ああ、これだよ、これ!!」と膝をたたきたくなる。
とりわけ快適さを感じるのが、混雑した電車での移動中。吊革につかまったままでも、片手でLINEやTwitterで不自由なくメッセージの処理ができるし、ニュースアプリのチェックから各種ゲームのプレイ、「dTV」や「Netflix」で動画を見るのも楽々だ。全て片手でできる。東京や大阪など都市圏在住で、混雑した電車での移動が多い人ならば、この片手持ち・片手操作だけでも最大級の価値を感じるはずだ。
iPhone SEとiPhone 6sで、ドコモの動画配信サービス「dTV」を見たところ。画面のサイズや明るさではiPhone 6sの方が上だが、iPhone SEでも十分に動画が楽しめる。なお動画再生時のバッテリー消費量はiPhone SEの方が少ない(撮影協力: dTV/NTTドコモ)
そして、あらためて再認識するのが、iOSはもともと「小さい画面向け」だということ。これは優劣の話ではなく、設計思想がそうなのだ。基本のUIデザインから日本向けのフリック入力まで、iOSは当初から「小さい画面・小さい端末」に最適化して設計されていた。だからこそ、筆者が普段使っているiPhone 6sからiPhone SEにダウンサイジングをしても、使いにくくなったとはまったく感じない。
一部で「今さら小さな画面では、文字などが読みにくいのでは」という声もあるようだが、それも杞憂だ。iPhone+iOSは画面の拡大縮小が素早く、スムーズかつナチュラルに行える。文字が小さいと感じたなら、画面をダブルタップかピンチアウトして拡大すればいいだけである。ごく自然に4型サイズのスクリーンでも不自由なく使えるのは、ハードウェアとソフトウェアが調和しているiPhone+iOSの特権といえるだろう。
また、iPhone SEを使っていて、望外にこのサイズとデザインの使いやすさを感じたのが、カメラでの撮影時だ。周知の通り、iPhone 5sを踏襲したiPhone SEのデザインは直線を基調にしており、iPhone 6sより厚みがある。これがカメラ撮影時にはホールド感の向上につながっており、写真撮影は最近の“ワイド&スリム”なスマートフォンより明らかに使いやすいと感じた。
iPhone 6sと比較しても、カメラの使い勝手はiPhone SEの方が上だ。惜しむらくは、このカメラモードの使いやすさはセルフィー(自撮り)でも発揮されるのに、それに使うFaceTimeカメラ(インカメラ)は120万画素にとどまり、500万画素のiPhone 6sと同等レベルまで強化されなかったことだろう。ここも強化されていたならば、SNSとセルフィーの利用が多い女子中高生にとって、iPhone SEは最強・最適なスマートフォンになっていたはずだ。次期モデルでぜひ改善してほしいところである。
総じていえば、iPhone SEは大型化が著しいスマートフォンの中で、群を抜いて使いやすい1台に仕上がっている。これは単純にハードウェアサイズによるものだけでなく、iOSというソフトウェアとの連携・調和による部分が大きい。AppleはiPhoneを「4型最強のスマートフォン」とし、小型化と高性能化の両立をアピールしたが、それ以上に、まさに人馬一体のような使い勝手のよさこそがiPhone SEの身上である。
ハイエンドで通用する基本機能
iPhone SEにおいて、Appleが特に注力した機能強化ポイントは2つある。1つはスマートフォンの心臓部である「CPUとメインメモリ」。そして、2つ目が一般ユーザーにとって最も重要な機能である「カメラ」だ。
まず、CPUとメモリだが、こちらはApple製のA9チップを軸にiPhone 6sとまったく同じ仕様を搭載。これは現行のハイエンドスマートフォンの中でも最高クラスの処理能力を持っており、アプリの利用から動画サービスの利用、さらには4K動画の撮影までそつなくこなす。今後2〜3年、最新のiOSにバージョンアップしながら、何の不満もなく利用できるだろう。iPhone SEの投入にあたり、AppleがCPU性能に一切の妥協をしなかったことは高く評価できる。
カメラについては、iSisghtカメラ(アウトカメラ)がiPhone 6sと同等の1200万画素になった。Live PhotosやTrue Toneフラッシュ、4Kビデオ撮影まで、iPhone 6sで実装された最新のカメラ機能は全て対応している。詳しくは作例を参照してもらいたいが、iPhone 5sとの差は歴然である。先述の“カメラ利用時の持ちやすさ”もあわさって、最新スマートフォンの中でも、iPhone SEは特にカメラ性能がいいモデルとなっている。なお、蛇足であるが、iPhone 6sと同等のカメラ性能ながら、iPhone SEはカメラ部が出っ張っていないこともうれしいところだ。
また、iPhone SEにおける明確な機能強化ポイントではないが、実際に利用して感じた同機のメリットが「バッテリーが長持ちすること」である。今回、比較対象としてiPhone 6sとiPhone SEをあわせて持ち歩いていたが、iPhone SEの方が明らかにバッテリー消費量が少なかった。この違いはディスプレイのサイズや性能の違いによるところが大きそうだが、「バッテリーが長持ちするiPhoneが欲しい」という人にとって、iPhone SEは魅力的な選択肢になりそうだ。
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