1155万に達したMVNO市場の今後は?「モバイルフォーラム2016」:SIM通
今年で3回目となる「モバイルフォーラム2016」が開催された。今後MVNOがどのような役割を果たすのかをテーマとし、さまざまな識者が議論を繰り広げた。
一般社団法人テレコムサービス協会のMVNO委員会は3月16日、MVNOの課題や今後の展望などについて話し合うイベント「モバイルフォーラム2016」を開催しました。
今年で3回目となるこのイベントでは、昨年実施されたSIMロック解除義務化や、「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」の結果などを受け、今後MVNOがどのような役割を果たすのかをテーマとして、さまざまな識者が参加して議論を繰り広げていました。
なお会の冒頭、総務副大臣の松下新平氏から、昨年12月時点での国内MVNO契約数が1155万件に達したことが明らかにされています。松下氏はIoT(Internet of Things、モノのインターネット)の基盤となるモバイルの分野に期待を寄せており、昨年改正された電気通信事業法の、5月21日の施行に向けた準備を進めているとのこと。この改正によって、MVNOの多様化が進むことを期待しているそうです。
海外のMVNO市場はどうなっているのか〜情報通信総合研究所・岸田重行氏
最初の講演を務めた、情報通信総合研究所の上席主任研究員である岸田重行氏からは、海外のMVNOの動向などについて説明がなされました。
岸田氏によると、MVNOは欧米で先行して広がっているものの、同じ欧州であっても、MVNOが携帯電話市場で占めるシェアが国によってかなり異なるなど、その普及は必ずしも一律ではないとのこと。また欧米においても、当初のMVNOは日本同様価格重視の事業者や、国外からの出稼ぎ労働者や移民など、特定層をターゲットにした事業者が多かったようです。ですがその後は大手キャリアのサブブランドとしてのMVNOや、M2M/IoT向け、さらにはコンテンツなど付加価値を重視したMVNOが増えているとのことでした。
他にも岸田氏は、特徴的なMVNOの事例についても説明。世界で初めてインターネット上でSIMを販売したドイツのSimyoや、在独トルコ人をターゲットにしたTurkcell Europe、大手スーパーが直接通信サービスを提供し、利用者の望むタイミングで機種変更できるプログラムを提供するイギリスのTesco Mobile、中国のゲーム会社が手掛け、自社のゲーム機向けや外国からの渡航者向けにSIMを提供するSnail Mobileなど、国によって多様なMVNOが存在することが紹介されています。
タスクフォースがMVNOに与える影響は〜ジャーナリスト・石川温氏
続いて講演したのは、スマートフォン/ケータイジャーナリストの石川温氏。石川氏は昨年の総務省のタスクフォースによる影響が、今後のMVNO市場にどのような影響を与えるのかを、独自の取材を基に解説しました。
昨年のタスクフォースでまとめられた結論の影響によって、2月から大手キャリアは端末の0円販売を自粛しています。その自粛による影響について、石川氏は「今までのように端末が売れる状況ではなくなり、iPhoneでさえ販売が厳しくなっている」と、端末メーカーに大きな影響が出ていると説明。さらに、これまでシェアを伸ばしてきたKDDIやソフトバンクが対応に苦慮する一方、高額割引を目当てとした番号ポータビリティの利用が減ることで、「NTTドコモにとって有利に働くのではないか」と話しています。
一方で、大手キャリアはMVNOに向けた対抗策も打ち出してきており、ソフトバンクはワイモバイル向けに「iPhone 5s」を投入して若年層の獲得に力を入れているほか、KDDIもUQコミュニケーションズで、比較的安価な料金プランを提供しているとのこと。また石川氏は、グーグルがMVNOとなって米国で提供している「Project Fi」が、キャリアと手を組んで日本で提供されるとMVNOの脅威になるとも話しており、日本のキャリアが海外の事業者と提携し、MVNOに対抗してくる可能性も示唆しています。
消費者保護に向けた最新動向〜MVNO委員会・木村孝氏
MVNO委員会消費者問題分科会主査の木村孝氏からは、MVNOの消費者保護に関する最近の取り組みや動向について説明がなされました。木村氏によると、5月に施工される改正電気通信事業法によって、新たに「初期契約解除」という、クーリングオフと同様の仕組みが導入されるとのこと。当初は大手キャリアとUQコミュニケーションズのみが対象となる予定でしたが、最終的に期間拘束が付いたサービスは、MVNOであっても初期契約解除の対象になるとのことでした。
また従来、MVNOの回線から「110番」などの緊急通報をする際、警察などの緊急通報機関にはMNOの情報しか表示されなかったことから、緊急時にMVNO利用者の照会をする上では多くのハードルがあったとのこと。そこでMVNO委員会が窓口となり、昨年12月に警察や消防などの緊急通報機関と覚書を締結。緊急通報機関の照合に対応できる体制を作り上げたと、木村氏は説明しています。
SIMフリー端末メーカーが抱える課題とは〜パネルディスカッション
最後には、講演した石川氏がモデレーターを務めてのパネルディスカッションが実施されました。このパネルディスカッションでは、主にSIMフリー端末を手掛ける国内外のメーカーや、それを販売する立場のディストリビューターなどが参加し、SIMフリースマホの現状や課題などについて議論がなされました。
SIMフリー端末はMVNOの盛り上がりと共に急速に数を増やしていますが、実際のところ、そうしたメーカーはどのような悩みを抱えているのでしょうか。HTC NIPPON代表取締役社長の玉野浩氏からは「SIMフリー端末はパソコンなどのコモディティ商品と同様に扱われるため、流通コストが高い」、マウスコンピューター製品企画部 部長の平井健裕氏からは「モバイルSuicaに対する要望が多いが、現在の規模では対応に向けた交渉のテーブルにつくこと自体難しい」など、各メーカーからはさまざまな悩みが上げられています。
また、日本ではSIMと端末をセットで販売するのが一般的であることから、販売しやすくする上ではSIMと端末のセット販売が重要だという意見もあります。実際、プラスワン・マーケティングの大仲泰弘氏は「SIMフリーで事業展開しようとした時、キャリア同様端末とSIMの両方を手掛けないと駄目だという考えがあった」と話しており、双方を自社で提供する体制を作り上げています。ですが一方で、「急に大きくは変わらないだろうが、MVNOの認知が進み、最初からMVNOに触れるユーザーが増えることで、SIMと端末を別々に購入するスタイルもじわじわと広がってくるのではないか」(MVNO委員会の副委員長である島上純一氏)という意見も出ているようです。
島上氏によると、モバイルフォーラムの第1回では、SIMフリー端末の数自体が非常に少ないことが、MVNOのサービスを普及していく上での大きな課題として議論されていたとのこと。ですがそれから2年が経過した現在では、多くのメーカーがSIMフリー端末市場に参入し、選ぶのが難しいほど端末の種類が増えています。それだけ急速に変化しているMVNO市場だけに、今後もより大きな変化が起きる可能性が高いといえそうです。
(佐野正弘)
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