格安SIM/スマホの向かう先は?――業界のキーパーソンが語り合った「モバイルフォーラム2016」(1/2 ページ)
総務省が2015年末に開催した「タスクフォース」では、MVNOサービス(格安SIM)の競争促進をすべきとの方向が示されたが、MVNOとユーザーにどのような影響を及ぼすのだろうか? ジャーナリストの石川温氏や、SIMフリーメーカーのキーパーソンが、各自の考えを述べた。
総務省が2015年10月から12月にかけて実施した「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」では、MVNOサービス(格安SIM)の競争促進をすべきとの方向が示されたが、MVNOとユーザーにどのような影響を及ぼすのだろうか? 3月16日にテレコムサービス協会が開催した「モバイルフォーラム」にて、ジャーナリストの石川温氏や、SIMロックフリー端末メーカーのキーパーソンが、各自の考えを述べた。
大手キャリアのサブブランドが強くなる
石川氏は、2016年は通信キャリアやメーカーにとって「だいぶつらい年になる」と予測する。その大きなポイントが、総務省が3キャリアにスマートフォンを実質0円で販売することを控えるよう勧告したこと。これにより、2月の販売数が大きく落ち込んだ。ドコモは1割程度落ち込んだようだが、「キャッシュバック戦争がなくなると、最終的にドコモに有利に働くのでは」と石川氏。auとソフトバンクの契約数が増えるということは、ドコモからの流出も増えていることなので、それに歯止めがかかれば、ドコモにとってはありがたい。ただ「競争がなくなると、ユーザーにとってよかったのかはクエスションマーク」と疑問も呈した。
タスクフォースでの要望から3キャリアが提供を始めた1GBプラン(低容量プラン)は「やる気のないプラン」(石川氏)と酷評。「キャリアは総務省を煙に巻くのがうまいと感じている。1GB 2900円でお得感があるのかはよく分からない。MVNOで契約すれば3GBで1000円なのが、なんで? となる。ソフトバンクとしては、1GBはあるけど、対外的にはY!mobileの方が安いとアピールしている」(石川氏)
ソフトバンクがY!mobileを推しているように、石川氏は大手キャリアのサブブランドが、今後強くなっていくとみる。KDDIの場合はグループ会社のUQコミュニケーションズが運営している「UQ mobile」がそれに当たり、実際、UQは月額2980円(税別、以下同)で1GBのデータ通信+1200円分の無料通話を含む「ぴったりプラン」を発表し、実質0円で販売しているスマホもある。ドコモは同じNTTグループの「OCN モバイル ONE」が格安SIMのシェア1位をキープしており、MVNOへのニーズに対応している。
中でも最近動きが活発なのがY!mobileだ。Y!mobileのSIMカードにMNPで乗り換えると、2万円のキャッシュバックをもらえるので、これを原資にSIMロックフリースマホを購入できる。量販店でも売場を拡大しており、格安SIMの有力な選択肢といえる。「Y!mobileはブランド、CMの安心感もあり、そこそこ売れている」と石川氏は評価する。
実質0円がなくなったとはいえ、「割引をしなくても売れるので、iPhoneが主力商品になることには変わらない」と石川氏。一方、実質0円の廃止で端末の販売数が減れば、中古市場での流通も減り、タスクフォースでも話題に上がった「中古市場の発展促進」は難しくなる。「中古市場を盛り上げるなら、新品が売れる市場を作らないと」(石川氏)
Googleがソフトバンクと組んでMVNOに?
石川氏は、Googleが米国で提供しているMVNOサービス「Project Fi」にも言及。実際にProject Fiを契約して海外で使っているという同氏は、月10ドルで1GBという分かりやすい料金体系と、120カ国で使用でき、未使用分は返金されるという使い勝手の良さが魅力だと話す。
米国ではT-MobileとSprintのネットワークを借りているProject Fiだが、「Googleが国内キャリアと組んだら、どえらいことになる」と石川氏。「ソフトバンクが組んだりしたら怖い。HLR/HSS(加入者管理機能)も開放して、(訪日外国人の)インバウンド需要もごっそり持っていく可能性もある」と期待(?)した。
ドコモはHLR/HSSをMVNOへ開放することには消極的だが、石川氏は、ドコモは国内MVNOよりも海外MVNOと組む可能性があることを指摘する。「電気通信事業法の改正によって、(ドコモは)組みたいパートナーと自由に組める。自分たちにプラスになる人たちと組んで、対抗する可能性もある」とみる。
このほか、日本ではKDDIと連携した「Apple SIM」の今後や、Microsoftが日本でSIMを出すとしたらどこのキャリアと組むか、といったことも話題に上がった。
MVNOがiPhoneを扱えるかがカギを握る
既に多数のプレーヤーが参入し、レッドオーシャンと化してきた格安SIM市場だが、MVNOが生き残るためには何が必要になってくるのだろうか? 2014年にイオンがSIMサービスの提供を開始してから、新聞を中心に「格安スマホ」という言葉が頻繁に使われるようになったが、石川氏は「格安からいかに脱却するかが重要」と言う。「安い層を取りに行かなくてもいいという話もある。ビジネス的には先がないので、お金を持っている人に満足して使ってもらうか」(石川氏)
数あるサービスの中でも石川氏が注目するのが「楽天モバイル」と「イオンモバイル」。両社は一般ユーザーの知名度が高く、先のY!mobileと同様、安心感につながる。特にイオンモバイルは全国213のイオン店舗で故障修理も受け付けており、対面でのサポートが弱いという格安SIMの弱点をカバーしている。
ほかに、LINE、WhatsApp、WeChatの通信料を無料にした「FREETEL SIM」、動画(J:COMオンデマンド)が見放題の「J:COM MOBILE」など、コンテンツと連携する施策が1つの軸になる、と石川氏はみる。スマートフォンに限らず、さまざまなデバイスがインターネットにつながる「IoT」も盛り上がりつつあるが、「漠然として、単なるトレンドワードで終わってしまう可能性もある」と石川氏。「SIMカードが入る製品がこれから盛り上がっていくといいと思う」と期待を寄せる一方で、「(IoTデバイスは)たくさんデータが流れるものではないので、採算が取れるかは不透明」と課題も挙げた。
MVNOがiPhoneを扱えるかどうかもカギを握る。「米国ではMVNOがiPhoneを扱っているケースがある。現地MVNOの安い料金でiPhoneが使える。国内MVNOにはiPhoneを扱えるよう(Appleと)交渉しているようだけど、大手3キャリアが全力で阻んでいるという話もある」と話す。特にiPhone SEはSIMロックフリー版が5万〜6万円台と、比較的手頃な価格なので、MVNOがセットで販売できるようになると、さらに裾野が広がりそうだ。
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