ツートップ、iPhone導入、新料金プラン、「+d」構想――ドコモ加藤社長が4年間で成し遂げたこと:石野純也のMobile Eye(4月25日〜5月13日)(1/2 ページ)
ドコモの社長が加藤薫氏から吉澤和弘氏に交代することになった。加藤氏が社長に就任してからの4年でドコモは大きく変わった。加藤氏の発言や打ち出した施策を振り返っていきたい。
NTTドコモの新社長候補が、現・副社長の吉澤和弘氏に決まった。13日には、記者会見を開催。6月16日の株主総会および取締役会で、正式に社長に就任する見通しだ。現・社長の加藤薫氏は、相談役に就任する予定だ。
この4年で、ドコモは大きく変わった。iPhoneの導入、料金プランの刷新、ドコモ光の開始と、端末、料金、ネットワークでさまざまな施策を矢継ぎ早に打ち出してきた。MNP開始以来、他社に押されていたドコモだが、流出がほぼ止まったのも最近のことだ。上位レイヤーを見ても、dTVやdマガジン、dヒッツなど人気サービスが生まれ、「+d」として他企業とのコラボレーションにも積極的になり始めた。その陣頭指揮を取っていたのが、加藤氏だ。
一方で、新料金プランの普及が予定より大幅に前倒しで進んでしまったことにより、収益的には厳しい状況が続いていた。その業績がようやく回復したのは2015年度。その間、持ち株会社や株主からは、厳しい目が向けられていた。身を切って会社を変え、ようやく回復の軌道に乗ったという点では、ドコモにとって激動の4年間だったといえるだろう。
本連載では、加藤氏の発言や打ち出した施策を振り返りつつ、ドコモが4年でどう変わったのかに迫っていきたい。
iPhone対抗からiPhone導入へ、変わるドコモの端末戦略
加藤氏がドコモの社長に就任したのは、2012年6月19日。その1日後には、社長就任会見が開かれ、戦略を語っている。ここで打ち出した方針が「スピード&チャレンジ」。加藤氏は「7分で良しとせよ」と述べ、サービスをまず出し、世に問うことの重要性を説いた。
どちらかと言えば万全を期す体質のあるドコモだが、それだけだとスピード感がなくなってしまう。競争も激しい中では、迅速な対応も必要になる。これを一言で表したのが、「7分で良しとせよ」というスローガンだ。同じ席で加藤氏は、通信インフラを強化することを「ドコモの使命」としつつ、一方でスマートフォンやその上に乗る新たなサービスを届けることを、「ドコモの夢」だと語っている。
2012年10月には、社長就任後初となる新製品、新サービス発表会が開かれた。当時はまだiPhoneを導入していなかったドコモ。直前に発売されたiPhone 5には「一定の影響を受けた」と加藤氏はコメントしていた。iPhoneの魅力を問われた加藤氏は、「非常に魅力的」としながらも、「サービスとネットワーク、端末を一体的にやっていきたいのと(方針と)、Appleの道が少し違う」と語っていた。「どのくらい共存できるのか、いつも模索している」といい、水面下では交渉が進んでいたが、取り扱いの条件で折り合いがつかなかったようだ。
そのiPhoneへの対抗や、iモード機からスマートフォンへ乗り換えを促進するために、ドコモは2013年5月の製品発表会で、大胆な手を打ってきた。「ツートップ戦略」だ。これはサムスンの「GALAXY S4」と、ソニーモバイルの「Xperia A」を販売面で優遇し、ドコモの“目玉”に据える戦略のこと。他のメーカーからは恨み節が聞こえつつも、約1カ月後の株主総会では、Xperia Aが64万台、GALAXY S4が32万台を販売したと発表。加藤氏によると「iモード機からの買い替えがかなり進んだ」と語り、一定の成果を残した。
ただ、その翌月の2013年7月26日に開催された決算説明会では、「一方でもう1つの効果として期待していたMNPは、6月の成績があまり改善されなかった」と述べていた通り、ツートップ戦略も、iPhone対抗の決定打にはならかったようだ。そして、その年の9月、ドコモはついにiPhoneの導入に踏み切った。iPhone 5s、5cの発表時には、ドコモとAppleが異例の共同プレスリリースを出すなど、Apple側にとっても、ドコモでの取り扱いが日本市場攻略の切札であったことがうかがえる。
発売日である2013年9月20日は、記者会見を開催。加藤氏は「最高のネットワークと一緒に、いわゆるドコモワールドを楽しんでいただきたい」と語り、ネットワークやdマーケットのサービスで、他社と差別化していくことをアピール。ネットワーク面では、20MHz幅を使った1.7GHz帯(Band 3)のLTEをiPhoneに合わせて開始。dマーケットのコンテンツも、続々とiOSに対応させた。ドコモとしても万全の態勢を取り、iPhoneを受け入れたというわけだ。
一方で、そのあおりを受けることになったのが、「第3のOS」と呼ばれていた「Tizen」。ドコモやサムスンが主導して開発を進めており、商用機も発売目前の状態だったが、2014年1月に導入の見送りを発表した。関係者によると、加藤氏の鶴の一声があったといい、状況が急転したことがうかがえる。Tizenはあくまで「当面見送る」というスタンスだったが、現時点でも日本で端末は発売されていない。
iPhone効果でMNPの流出が減り、新料金プランで競争力を強化
iPhone導入以降、MNPでドコモから流出するユーザーの数は、徐々に減少していく。2014年1月に開かれた決算説明では、加藤氏が「iPhone発売以降、競争力は着実に改善している」と宣言。dマーケットのサービスも、700万契約を突破した。これを機に、ドコモは反転攻勢に打って出た。2014年4月10日には、音声定額サービスを主軸に、段階制のパケットパックを組み合わせる新料金プランを発表。家族で契約するとお得になる「シェアパック」を導入したのも、このときのことだ。長期利用ユーザーの優遇施策として、「ずっとドコモ割」も開始している。
この新料金プランは、大きな反響を呼んだ。5月から予約を受け付けていたこともあり、開始直後の6月1日には208万契約を突破。6月末に467万契約、7月5日には500万契約を超えている。7月25日に開催された決算説明会では、600万契約の突破を発表。加藤氏も「順調な滑り出しであった」と述べ、自信をのぞかせた。この料金プランが好評を博したこともあり、「前年比で5倍以上」と大幅な新規ユーザーも獲得できている。他社も慌ててこの新料金プランに対抗したが、加藤氏が「私どもが一番先に出したので、それをご評価いただいているのだと思う」と語っていたように、ドコモの契約数が突出していた。
一方で、あまりに急速な新料金プランの普及は、業績に与える影響も小さくなかった。新料金プランは、音声通話が定額で提供されるため、通話の多いユーザーから移行が進んでいく。結果として、通話から得られる収入は減る構造にある。ドコモは、これをデータパックで補おうとしたが、当初は容量が2GBの「データSパック」の比率が高くなってしまった。
そのため、トータルで大幅な減収に見舞われることになった。2014年10月31日には、通期での営業利益見通しを6300億円に引き下げた。加藤氏が「第3位、ドベでございます」と述べていたように、3キャリアの中で、最も業績が振るわない結果となっている。ここから、ドコモは早急な収益改善に着手。ユーザーにより大きなデータパックを使ってもらうことを促しつつ、コストの削減も徹底した。結果として、2015年度は、冒頭に述べたように増収増益を達成している。
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