格安だけじゃない“フルMVNO”の可能性 IIJが「HLR/HSS開放」を説明:ワイヤレスジャパン 2016
「安さだけでない選択肢を提供できる」。IIJの島上CTOが、大手キャリアの「HLR/HSS」開放で得られるメリットを説明。同時にハードルの高さも明かした。
ワイヤレスジャパン 2016の基調講演にインターネットイニシアティブ(IIJ)の島上純一CTOが登壇。携帯電話の大手キャリアが「HLR/HSS」(加入者管理装置)をMVNOに開放することで、新たなモバイルビジネスを創出できるとの考えを示した。
IIJのMVNOモバイルサービスは3月時点で約122万8000回線で、2016年度中の200万回線獲得を目指している。またIIJがMVNEとしてパートナーシップを組む企業も100社を超えた。
総務省によるとMVNO全体の契約数は2015年末に1155万回線で、全携帯電話回線の7.2%まで成長した。参入事業者も210社に上る。IIJがまとめた数値では四半期ごとの純増数でもMVNOのシェアが上がっており、「回線数はMNO(大手キャリア)が多いが、MVNOの比率が伸びている。2015年10〜12月は純増の66%がMVNOだった。MVNOが(大手3キャリアに次ぐ)第4の勢力になった」(島上氏)という。
2014年10月に総務省が発表した「モバイル創生プラン」では、2016年度中にMVNOが1500万回線になると掲げており、島上氏は「今の手応えから、1500万回線は決して届かない数値ではない」と予測する。同プランは競争促進のためSIMロック解除やMVNOの利用促進も後押ししており、前後してNTTドコモ版とSIMロックフリー版のiPhoneが発売されるなど、ドコモ網を使う多くのMVNOにとって追い風となった。
その後もモバイル市場における競争環境の整備は進み、2015年後半には総務省のタスクフォースで携帯電話料金の値下げが議論され、スマートフォンの実質0円販売やいわゆる2年縛りが解消されつつある。さらに法律が改正され、MVNOがより柔軟にモバイル回線を調達できるようになり、接続料の算定方法も明確になった。消費者保護の一環として、契約後でも一定期間なら解約を解除できる、クーリングオフに近い制度も導入された。
島上氏は日本におけるMVNOの開始から今日までを振り返り、「MVNOの第1章は成功した。新しいエコシステムが生まれ、イノベーションを迎えたといえるだろう」と評価する。しかしその一方で、「“格安スマホ”とよばれるように価格競争が進んだ。参入事業者も増え、端末とのセットなどMNOとの均質化、差別化の難しさが出てきた。競争が激化し、まさにレッドオーシャン」とも指摘する。
激しい競争によって右肩上がりに成長するMVNOだが、島上氏は「直線ではなく、指数関数的に成長させたい」という意欲も見せた。政府の競争政策にも触れ、「MVNOのメリットはなんといってもユーザーの選択肢を増やすこと。これが市場の成長と拡大につながる」と述べ、MVNOの第2章としてHLR/HSSの開放に期待した。
HLR/HSSはユーザーのSIMカードを管理するデータベースで、契約情報を元にユーザーを認証し、接続を許可するネットワークの制御などを行っている。モバイル通信サービスのコアネットワークに位置し、日本ではまだ大手キャリアからMVNOへ開放されていない。しかし改正されたMVNOガイドラインではその開放が求められている。
ヨーロッパでは自前のHLR/HSSを持ち、独自にSIMカードを調達して柔軟なモバイルサービスを提供できる「フルMVNO」とよばれる業態が存在する。フルMVNOになることで到達するSIMカードの自由度が増し、標準/Mini/Nanoの3サイズに切り取れるマルチフォームファクタSIMカードや、IoTやM2M機器への組み込み用途で期待されているeSIMを提供できるようになる。
また現在はMNOのローミング接続となる海外での利用も、フルMVNOなら国ごとに独自サービスを提供したり、滞在先でプリペイドプランに切り替える、といったことも可能だ。さらにSIM自体にNFC機能を加え、FinTechを使ったモバイル向けの金融サービスや、マイナンバーと連携した認証機能を持たせることも考えられるという。
しかしHLR/HSSを運用するには多額の設備投資が必要になり、多くのMVNOにとっては技術的な課題も少なくない。「インターネットの会社からみると、HLR/HSSのような設備は勉強することが多く、MNOにお任せしていることを自分たちで行うハードルは高い。また新しいサービスを提供する前の技術的な検証にも時間がかかるだろう。決してバラ色の未来ばかりではない」と、島上氏は道のりの難しさを認める。
それだけに、「それに見合ったビジネスモデルのイノベーションが必要。ユーザーのニーズに応える新しいサービスを生み出すためにも、パートナーの皆さまの力をぜひお借りしたい」と訴えた。
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