公正取引委員会が、大手キャリアの販売方式の問題点を指摘――キャリアが割賦販売を辞めた時、MVNOは太刀打ちできるのか:石川温のスマホ業界新聞
公正取引委員会が携帯電話市場の問題点を指摘する報告書を公表した。大手キャリアの販売方法がMVNOを追い込んでいるというが、これを踏まえて大手キャリアの販売方法が変われば、むしろMVNOをより追い込む結果になるかもしれない。
公正取引委員会は8月2日、「携帯電話市場における競争政策上の課題について」という報告書を公表した。
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この記事は、毎週土曜日に配信されているメールマガジン「石川温のスマホ業界新聞」から、一部を転載したものです。今回の記事は2016年8月6日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額540円・税込)の申し込みはこちらから。
昨年後半から総務省で議論が進んだ「タスクフォース」よりもさらに突っ込んだ内容に仕上がっている印象だ。「タスクフォースによる各キャリアへの要請だけでは手ぬるいと考えた老舗MVNOに焚きつけられたのではないか」と勘ぐる業界関係者がいるほどだ。
報告書では「通信サービスと端末が一体となって販売し、端末価格を通信料金から大幅に割り引くのは、SIMフリースマホを扱うMVNOよりも有利な状況を引き出している」と指摘する。
確かに正論のように聞こえるが、このような販売方法は、ソフトバンクが携帯電話市場に参入した時から、他社に広まり、すでに常識的になっている。なぜ、割賦販売が10年近く続いてきた、このタイミングで公正取引委員会がしゃしゃり出てくるのか理解に苦しむ。もし、割賦販売が問題視されるのであれば、何年も前に指摘しても良かったのではないか。
また、「SIMフリースマホを扱うMVNOよりも有利な状況」と指摘するが、そもそも割賦販売が横行している中で、SIMフリーを扱うMVNOはスマホ市場が形成されている中に新規参入してきたプレイヤーだ。あとからのこのこやってきて、「割賦販売はおかしい」というのであれば、MNOには真似できないような販売手法を開発し、ユーザーが「お得で便利」と感じられる売り方で、顧客を獲得していけばいいのではないか。
いま、大手キャリアは、割高な通信料金から端末代金を割り引くという販売方法を採用しているからこそ、多くのユーザーは「キャリアの料金は高い」と感じ、格安スマホに興味を示しているはずだ。ここで、もし大手キャリアが、現行の割賦販売を辞め、本当に端末代金と通信料金を分離し、端末代金の割引をやめる代わりに、通信料金を大幅に値下げしてしまっては、MVNOの出る幕はなくなってしまうはずだ。
8月2日に行われたKDDIの決算会見では、初めて、UQモバイルについて具体的な言及があったようだ(ニューヨーク出張のため参加できなかったが)。
つまり、KDDIにとっても、MVNOの存在を敵視し始めており、グループ会社を使ってなんとかMVNOを潰しにかかろうと本気になり始めたということだ。
本来、MVNOを促進させたいのであれば、大手キャリアの売り方はいまのままでいったほうがいいだろう。誰もが「高い」と感じているからこそ、MVNOにとっては大きなチャンスのはずだ。
一部のMVNOが、自分たちの力が不足しているからといって、公正取引委員会に駆け込むようでは、結果として、大手キャリアの販売手法が変わり、MVNOにとって、攻めにくくなるのは間違いない。
大手キャリアは、環境の変化に対応できない恐竜になりつつあるのだから、あえて進化させなければ自滅したっておかしくない。しかし、MVNOはなぜ、恐竜となった大手キャリアを進化させようと公正取引委員会に駆け込んだのか。MVNOは大手キャリアに「同じ土俵に立て」と言いたいのだろうが、大手キャリアとMVNOが本気でぶつかり合ったら、どちらが負けるかは目に見えている。今回の行為はMVNOのほうが自滅しかねない結果に終わりそうだ。
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