現実味を帯びてきた「5G」、スマホも「1Gbps」の時代に MWC 2017で見えたもの:石野純也のMobile Eye(2/2 ページ)
2017年のMobile World Congressは、商用化が迫る「5G」の姿とそこへの道筋が、より具体的に見えてきた。スマートフォンの新製品はカメラの向上が目立ったが、1Gbps通信対応のモデルも登場し、端末スペックも5Gに近づきつつある。
理論値で「最大1Gbps」 5Gへと近づくスマホの通信スペック
とはいえ、端末もMWCのテーマとはまったく無関係というわけではなく、むしろ今の4Gと5Gの間を橋渡しするかのように、各社とも通信機能をアピールしていたのが印象的だった。実際、5G導入を前に、今のLTE Advanceも高速・大容量化が進んでいる。日本国内を見ても、ドコモが3月に「4×4 MIMO」と「256QAM」を併用し、下り最大682Mbpsを実現。ソフトバンクも、612Mbps対応のサービスを開始した。あとは十分な帯域さえあれば1Gbpsを超える見込みで、ドコモは2020年前にこれを達成するロードマップを公開している。
LTE-Advanceを高速化し、1Gbpsを達成する「ギガビットLTE」は、2016年のMWCでも技術展示として公開され、1つのテーマになっていた。2017年の大きな違いは、それをメーカー側が商用機に実装してきたことだ。先に挙げたソニーモバイルのXperia XZ Premiumは、Qualcommの「Snapdragon 835」を搭載し、これによって下り最大1Gbpsの速度を実現した。Xperia XZ Premiumは、4Kディスプレイを搭載したモデルで、HDR対応のコンテンツ再生にも対応した。これに対応した映像は、Amazonで配信される予定。単に高速なネットワークに対応しただけでなく、その速度を生かし、何を楽しむかまで考えられた商品に仕上がっている。
MWCで発表された1Gbps対応の商用モデルはXperia XZ Premiumのみだったが、ZTEも「Gigabit Phone」と銘打った試作機を出展していた。こちらも、Xperia XZ Premiumと同様、QualcommのSnapdragon 835を搭載しており、4×4 MIMOと256QAMを併用することで、下り最大1Gbpsを実現する。残念ながら「具体的な商用化の時期などは未定」(説明員)とのことだったが、AXONシリーズなどのフラグシップモデルへの採用も期待できそうだ。
また、1Gbpsには達していないが、HuaweiもP10 Plusを4×4 MIMOに対応させた。会期前日に開催されたプレスカンファレンスでは、ユー氏が「4.5G対応」(規格上は4GのLTE-Advancedに含まれる)と大々的にうたうなど、こちらも通信面でのパフォーマンスをアピールしていた。HuaweiはP10 Plusを使い、英・ロンドンで通信実験も行っており、「フィールドテストを行ったが、とてもコネクティビティが高い」(ユー氏)と、その成果を語っていた。
とはいえ、5Gで想定されているユースケースは、スマートフォンだけではない。高速通信という点ではスマートフォンが恩恵を受けるのは確かだが、5Gは、医療、自動車、工場、ロボットなど、通信以外の他業種への導入もターゲットに入っており、どちらかといえば、IoTを含め、B2Bの領域に近い分野への広がりが期待されている。国内ではドコモが「+d」戦略を取り、他社と協業しているが、これも5Gに向けた布石の1つと考えていいだろう。実際、MWCでも車同士や、車とモノ、車と人などの通信を可能にする「セルラーV2X」の展示やデモが目立っていた。
大手端末メーカーも、この動きに呼応するように、スマートフォンから派生した商品を発表していた。例えば、HuaweiはP10、P10 Plusに加え、LTEやeSIMに対応した「HUAWEI Watch 2」をMWCで披露。従来型のスマートウォッチとは異なり、スマートフォンとBluetoothで連携する必要なく、単独で通信できるのがこのデバイスの強みだ。当初はWi-Fi版のみとなり、LTEも搭載されないため、ここにくくるのはふさわしくないかもしれないが、ソニーモバイルが正式発表した「Xperia Touch」も、5G時代を見すえ、スマートフォンの“次”を模索する動きから生まれた製品といえそうだ。
AIを活用したプラットフォームにも注目
ポストスマホという点では、LINEの発表した対話型AIプラットフォームの「Clova」も、注目のサービスだった。Clova対応のデバイスとして、LINEはスマートスピーカーの「WAVE」を2017年夏に日本と韓国で発売。ディスプレイ搭載型の「FACE」も、2017年冬までに発売することを目指す。これらの自社デバイスに加え、LINEはソニーモバイルやLGエレクトロニクス、タカラトミーなどとの協業も発表した。
AIを活用し、音声でさまざまな操作を行えるプラットフォームは、Amazonのスマートスピーカー「Echo」に搭載された「Alexa」がヒットし、Googleも「Googleアシスタント」の普及をもくろんでいる。一方で、展開地域は米国など一部に限定され、対応する言語も英語やドイツ語などにとどまっている。
複数の関係者によると、各地域の文化や特徴に合わせた応答ができるようになるためには、単純な翻訳以上に膨大なデータの収集やチューニングが必要になるという。LINEの出澤剛社長も「(対話型AIは)必ずしもシリコンバレーのプレーヤーが強い領域ではない」と語る。LINEのClovaが、同社や同社の親会社であるNaverが豊富なコンテンツやデータを持つアジア圏にターゲットを絞ったのもそのためで、勝機は十分あると考えているようだ。
このように、2017年のMWCを俯瞰すると、5Gの開始に向け、各レイヤーの企業が足並みをそろえつつあることがうかがえた。もちろん、筆者1人でMWCに展示されていた膨大な製品やサービスを全て見るのは到底不可能なことで、個々の事例の中には、テーマに当てはまらないものもある。一方で、業界全体の方向性として、5Gの導入がいよいよ現実味を帯び始めてきた――。そんな空気感を感じた2017年のMWCだった。
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