「スピードテストブースト」は可能なのか?:MVNOの深イイ話(3/3 ページ)
スピードテストアプリの測定結果と、実際の快適さが懸け離れている事業者さんがあるという声が聞かれます。ネット上では「スピードテストブースト」などと呼ばれているますが、このようなことは可能なのでしょうか? その技術的な背景について紹介します。
通信制御の技術と意図
ここまで、「スピードテストブースト」を実現するために使われるであろう技術について紹介しました。注意していただきたいのは、これらの技術を使ったとしても、設備の上限を上回る結果を出すことはできない、あくまでスピードテストの通信の速度低下を緩和することができるだけだということです。
しかし、昼休み(12時〜13時)など、利用の集中のために全体的に速度が低下している中で、スピードテストのみ速度の低下が緩和されているのであれば、結果的に「ブースト」したように見えるでしょう。昼休みの速度低下はほぼ全てのMVNOで共通して起こっていることですので、その時間帯でもスピードテストの結果が低下していなことをみた利用者は良い印象を持つものと思われます。
この通り、技術的には「スピードテストブースト」のようなことは可能です。しかし、アプリの結果や動画のダウンロード速度の比較だけを見て、あるMVNOがスピードテストをターゲットに細工していると考えるのはいささか勇み足です。仮に何らかの通信制御が行われていたとしても、外部からの観測だけでは実際にどのような細工が施されているのか、また、それがどのような意図に基づいて行われたのかを断定することはできません。
例えば、スピードテストアプリの結果に比べて動画再生時のダウンロード速度が著しく遅いといった現象を確認したとしても、それがスピードテストの通信を優先させたのか、反対に動画のダウンロードだけを劣後させていたのかは分かりません。
また、優先する通信、劣後させる通信を識別する際に、その識別条件が十分ではなく、本来対象と考えていたのとは異なる通信に影響を与えていただけという可能性もあります。
特定のアプリの通信を無料化する「カウントフリー」や、画像・動画の品質を劣化させることで体感速度を高める「通信の最適化」を始め、MVNO各社は特色を出すために通信内容をさまざまに制御する技術を投入しています。それによって得られるメリットもあるでしょうが、一方で利用者にとっては投入された技術が自分の通信にどのような影響を与えるのか分かりにくくなっているという側面もあります。
スピードテストは結果が数字で表される「分かりやすい」指標です。しかし、それに過度に注目しすぎると、事業者も、利用者も本質を見失ってしまう可能性があります。
そもそも、スピードテストアプリは通信速度を測るための1つの方法ではありますが、アプリが測った速度があらゆる状況に適用できるわけではありません。スピードテストが計測のために行う通信は、スマートフォンが行う通信の中でもかなり極端なものです。スピードテストの結果はあくまで1つの結果として、ほどほどに参考にするのが良いのではないかと考えています。
著者プロフィール
堂前清隆
株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) 広報部 技術広報担当課長
「IIJmioの中の人」の1人として、IIJ公式技術ブログ「てくろぐ」の執筆や、イベント「IIJmio meeting」を開催しています。エンジニアとしてコンテナ型データセンターの開発やケータイサイトのシステム運用、スマホの挙動調査まで、インターネットのさまざまなことを手掛けてきました。
- Twitterアカウント @IIJ_doumae
- IIJ公式技術ブログ「てくろぐ」 http://techlog.iij.ad.jp/
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