News:アンカーデスク | 2003年6月4日 01:20 PM 更新 |
テクノロジーの進化は無限。しかしビジネスモデルは?
Intelが世界最大の半導体企業として君臨できているのは、もちろん彼らがPCで使われる大規模半導体の多くで支配的な立場にあるからだ。その市場規模は巨大だ。しかし、それ以上にIntelが半導体企業として類いまれな存在になっている大きな理由は、彼らが作るチップが、ドルで3桁になるほど高価な物であることだ。
半導体製品の中にあって、1個が数百ドルという製品は滅多に存在しない。Intel製チップの平均単価が高値を維持できる理由は、もちろん彼らの立場が支配的なものであることもあるが、それだけで平均単価を維持するのは難しい。
むしろ、PC市場が常に上の性能を求め、それに対してその時点で最高性能のチップを提供し続けているからと考える方が妥当だろう。Intelはその地位を維持するため、毎年巨額の投資を行っている。研究開発およびマーケティングの投資は例年、前年度粗利の半分を割り当てるルールとなっており、今でもそのサイクルは継続されている。
しかし、PC向けチップの性能は、右肩上がりのなだらかな坂であるのに対して、コンソールゲーム機向けチップは約5年の周期で、階段状に性能や機能を向上させなければならない。
例えばPentium 4はその後数年に渡ってスケーラブルに性能を向上させる必要があったが、初期のリリースではPentium IIIを多少上回る性能で構わない。その時点でのベストであればいい。
しかしPS2はその後の5年間、クロック周波数の向上やメモリ増強などを行わなくとも魅力的なアーキテクチャーであり続けなければならない。この差は大きい。
長いスパンで見れば、両者のリスクはなされて同等と言えるかもしれないが、広く長期的な視野で将来のビジョンを描けなかった場合、軌道修正することは難しい。また投資のサイクルをどのように見積もるかも、大きな問題だ。
PSアーキテクチャーが、PSからPS2へ、PSP、PSXへ、さらにはそのほか多くのネットワーク化されたデジタル家電へと広げることができれば、SCEが作る高性能チップの受け皿とすることは可能だろう。しかし、次世代、さらに次世代と続けていくことは可能だろうか?
Intelは、下がってきたとは言え、まだまだ高い平均単価を維持することに成功し、利益率も下げずにやってきたが、そのIntelでさえ中長期的な展望では不確定な要素がある。
PC市場の成長性といった課題もあるが、半導体製造技術の研究開発にかかる費用が、指数関数的に増大しているからだ。つまり、利益率を維持できても、同時に市場規模が投資の増大ペースに追いつけなくなると非常に厳しい状態に追いやられる。
冒頭でも述べたように、テクノロジー業界の人々はテクノロジーの可能性について疑いを持つものはいない。しかし、市場成長の限界が、テクノロジーの進化を鈍らせる可能性は決して少なくないはずだ。チップベースでの利益率確保と将来的な半導体プロセスへの投資サイクル、一定以上の平均単価確保などが課題として挙げられるだろう。
例えCELLベースのアーキテクチャーが成功し、さまざまな規模の次世代PSアーキテクチャに基づくチップが世の中に広がったとしても、「バケツ一杯いくら」のありふれた製品になってしまっては、成長を維持することはできないからだ。高い利益率を確保しつつ、競争力を持つには、PSアーキテクチャーでなければならない「理由」が必要だ。
もっとも、個人的見解を言えば、筆者はこの件について、比較的楽観視している。CELLベースの次世代PSアーキテクチャーが姿を現してくるのは2005年と言われているが、そのアーキテクチャーが生き続けるだろう2010年ぐらいまでは、現在のペースでも成長を続けられると見ているからだ。その先はどうかって? この業界で、その先の期間まで見据えてビジネスをしている企業など、そもそも存在しえるものだろうか?
数年前、“日本の半導体ビジネスは死に絶えた”と言われた。それは世の中が必要とするアーキテクチャーを持たなかったためだろう。
しかしSCEは「エンターテイメント」という切り口で、他とは代え難い独自のアーキテクチャーを構築しようとしている。エンターテイメント、すなわち“楽しいこと”で、最新テクノロジーの未開拓地を切り開くことができれば、どんなにか、痛快なことだろう。
だからソニー、そしてSCEの半導体ビジネスから目を離すことができない。
[本田雅一, ITmedia]
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