小寺信良
「児童ポルノ法改正」に潜む危険(2/3 ページ)
「所持する」とは何か
インターネット社会になって難しいのが、この所持するという概念である。例えばある児童ポルノのイメージデータがあったとしよう。これを所持するとは、ごく単純に考えると自宅のPCのHDDに保存したり、DVD-RやCD-Rに保存する、あるいはプリントアウトするといったことに当たるだろう。
だがこれをネットまで含めて考えると、妙なことが沢山起こる。例えばスパムメールに添付されてそれらの画像が送り付けられてきたらどうか。メールは見る前に消してしまえばいいかもしれない。しかし最近では、メールのバックアップとしてGmailや携帯などに転送をかけている人もいるのではないだろうか。
ローカルPC内の画像は消したが、転送されたほうはすっかり忘れて、そのままになってしまうかもしれない。Gmailのファイルはローカルにはないが、データの所有権はおそらく本人にあるということになるだろう。つまりネットの世界では、「所持」という概念が、自宅内を超えるわけである。
ダウンロード違法化問題でも同じ点を指摘したが、PCとインターネットの関係では、ダウンロードと閲覧の区別など付かない。ネットサーフィン中に意図せず児童ポルノ画像に行き当たっただけで、ローカルPCにはキャッシュが生成される。これは所持なのか。
もうひとつ重要なのは、これはネットに限ったことではないが、これによって多くのえん罪が発生するのではないかという懸念である。先日も大阪市営地下鉄御堂筋線で痴漢でっち上げ事件が起こったが、この法案が通れば、わざわざ電車に乗り合わせる必要もない。つまり誰かを社会的に抹殺したいと思ったら、児童ポルノを郵便やメールで送りつけて、手に取ったり画像を開いた現場を押さえればいいということになる。現に米国や英国では、児童ポルノを使った社会的抹殺ではないかと言われている事件がいくつか発生している。
さらにウイルスのような形で、「自動えん罪プログラム」を作ることも可能だろう。PCに潜み、定期的に大量の児童ポルノをユーザーの気づかないフォルダに長年にわたり蓄積し、ある程度年数が経ったところで警察に匿名で通報するようなプログラムである。この法改正で、児童ポルノ法は不特定多数の人間を無差別に社会から葬り去る、「究極の情報兵器」となりうるのである。
携帯フィルタリングもダウンロード違法化もそうだが、もともと悪いのは、情報を出す側である。児童ポルノの提供者は、すでに現行法の七条で違法とされ、刑罰もある。なのに情報の受け手側を違法化するような、潜在的に一般市民全員を犯罪者に落としかねないようなやり方しか考えられない背景には、法改正に関わる者がいかにネットの仕組みを知らず、旧来の社会生活ベースでしかものを考えられないかという事実がある。ネット上の情報発信者が特定できないというのであれば、それを可能にする法改正にまず着手すべきだ。国際協力も、そこから始めるべきだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
「Xが情報収集に役立たない……」熊本地震で不満の声続出 「Twitterを返して」
-
2
メルカリ、梨の転売疑惑に「盗品の出品は確認されず」 誹謗中傷には利用制限も
-
3
はてな、11億円流出の調査報告書を公開 偽警察、口外禁止、残業・休出200時間超、孤立……ほころびが連鎖
-
4
「こんなのに追われたら……」急斜面もやすやす爆走、中国製の車輪付き四足ロボのデモ動画が話題 最高時速20km超
-
5
検索結果に「詐欺ではありません」と表示させる詐欺手口、警視庁が注意喚起 AI要約も餌食に
-
6
農水省の“クソダサ”ポスター話題 「AIよりよっぽど良い」の声も 担当者に狙いを聞いた
-
7
Z世代に聞く次の流行、「AIイラスト」が1位に 「Claude Code」も上位
-
8
東野圭吾さん死去、Xなどで追悼相次ぐ 「ガリレオ」など数々の人気作、エンジニアから転身
-
9
NVIDIAやMicrosoftなど30社超、オープンAIの防御ツール共同開発の「Open Secure AI Alliance」設立
-
10
「痺れるほどにミスを繰り返す」Gemini 3.6 Flashは変わった? 公開から1週間、当初のおバカ回答を今検証する
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR