プロ棋士向け最強将棋AIマシンを組む!

「CPU最強 vs. GPU最強」──進化する将棋AIのいま プロに勝利した「Ponanza」から「水匠」「dlshogi」まで(2/4 ページ)

CPUで高速動作するニューラルネットワーク評価関数「NNUE」

 elmoを含め、18年までの将棋ソフトの多くは王と任意の2駒の配置を評価する「三駒関係」(KPP)、あるいはそれに手番を加えた「KPPT」という評価関数を使ってきた。これは線形和(すごくざっくり言うと単純な足し算)で評価値を表せることから、局面と局面の差分を計算するのが簡単で、局面をたくさん計算するのに長けていた。

 ただ現実には、駒同士の特定の位置関係が常に同じ価値を持つとは限らない。こうした三駒関係の表現力の課題に目を付けて開発されたニューラルネットワーク型評価関数が「NNUE」だ。

NNUEを実装した将棋ソフト「the end of genesis T.N.K.evolution turbo type D」の評価関数(同ソフトの第28回大会におけるアピール文書より)

 NNUEは、医療機器ソフトウェア開発メーカーのザイオソフト(東京都港区)のコンピュータ将棋サークルメンバー、那須悠さんが開発した評価関数で、将棋ソフト「the end of genesis T.N.K.evolution turbo type D」に実装の上で第28回世界コンピュータ将棋選手権(18年5月)に参加。優勝こそ逃したが、5位という好成績で独創賞も受賞。この後、elmoや“CPU最強”「水匠」(すいしょう)などがNNUEをベースにした評価関数を実装していくことになる。

 那須さんが同大会に向けて書いたアピール文書によれば、NNUEは非線形なニューラルネットワークを扱いながらも、ある局面と次の局面の差分計算を処理の一部で利用したり、効率的なメモリアクセスパターンを採用したりすることで高速性を実現したという。さらに、CPUが実行できる並列処理命令の一つである「SIMD」演算で高速に計算できるように設計したとしている。

 NNUE登場以後について、ブログ「現代振り飛車ナビ」管理人の二歩千金さんは自身のブログで「複数のプログラマーさんの手によって非常に目まぐるしい早さで発展している」と驚きを見せる。18年5月にはやねうらおさんがやねうら王にNNUEをマージ。8月には水匠開発者のたややん(杉村達也)さんが「NNUEkai」という水匠向けのNNUE評価関数を公開した。

 たややんさんは第29回世界コンピュータ将棋選手権(19年5月)に向けたアピール文書の中で、自身を「学会などに出没するといわれている、素人を名乗る者ではなく、ガチ素人です」と紹介。本業は弁護士であることから「日常業務も計算や機械とかけ離れた、文系職業の最たるもの」として自身を“異世界転生ものの主人公”に例える。

 「現実はそう甘くないのか、それとも何かしらの爪痕を残せるのか、ご期待ください……ではなく、全く期待せず見守ってください」と文書を締めていたが、ふたを開ければ同大会では7位に、翌年の第30回(コロナ禍によりオンライン開催)では優勝を果たした。

 この第30回大会の際の、水匠の実行環境が「Ryzen Threadripper 3990X」とメモリ64GBというマシン構成だった。

印刷する
SNSでシェア
SpecialPR

プロ棋士向け最強将棋AIマシンを組む!

この連載の記事をもっと見る

この記事の著者

井上輝一
井上輝一

2016年3月からITmediaにジョイン。ITmedia Mobile、PC USER、LifeStyle、ヘルスケアで編集・執筆を兼務。2017年4月からITmedia NEWSでの兼務も開始。2019年4月にNEWS専属となる。スマートフォンやPCといったガジェット系の他、理系(神経科学)のバックグラウンドを生かして科学系のネタや、量子コンピュータ、ブロックチェーン、AIなど多岐に渡って取材している。

関連記事

こんなメディアも見られています

ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。

メールマガジンを配信中
メールマガジンを配信中

国内外の業界動向、AIやクラウドなどの最新技術、キャリア情報など今知りたい情報をまとめてお届けします。

いますぐご登録

本日の新着記事

アクセスランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

ITmedia NEWS SNS

X @itmedia_newsをフォロー

インフォメーション

ITmediaNEWSをフォロー

あなたにおすすめの記事PR