“PC”あるいは“Personal Computer”と呼ばれるもの、その変遷を辿る
もうPCIでは遅すぎる さらなる高速化目指すPCはPCI Expressへ(2/4 ページ)
PCIの速度がボトルネックに
最初に問題になると予想されていたのはグラフィックスであった。ちょうどこの頃からグラフィックス表現に3Dが加わり始めたことで、「PCIのままではTexture Data(テクスチャデータ)の転送が間に合わない」と考えられた。Texture Dataとは3Dのポリゴンの表面に張り付ける「模様」であるが、3D描画を高精細にすると必然的にこのTexture Dataの量が多くなり、グラフィックスカードのVRAMに乗りきらなくなるので、メインメモリにTexture Dataを置いて随時転送する形にしないと間に合わないと予想された。
そこで、グラフィックスカード専用にPCIを改造(魔改造?)した規格としてIntelが提唱したのがAGP(Accelerated Graphics Port)である。PCI-SIGではなくIntelが提唱した辺りが魔改造らしさを助長しているが、同社はこれを独自規格とするのではなく、AGP Implementation Forumを立ち上げ、ここにSpecificationを寄贈しており、それもあって「一時的に」PCにおける事実上の標準規格になった。
AGP 1.0は1996年7月にリリースされるが、これはPCIの32bit/66MHzをベースに、8bit幅のSide Bandと呼ばれるアドレス伝達用のバスを追加して、アドレス転送をここでやるようにして転送効率を上げたり、GART(Graphics Address Re-mapping Table)と呼ばれる仕組みを取り入れてテクスチャを置いたメインメモリを直接グラフィックスカードからアクセスできるようにするといった、もうグラフィックスカード専用に拡張したものである。転送モードは1x(32bit/66MHz)と2x(32bit/66MHz DDR)の2つで、2xだと533MB/secの転送速度が実現できた。
これはまぁチップセットのすぐそばにAGPスロットが1本だけあったから、ここまで信号速度を上げても何とかなったというべきか。
このAGP 1.0は信号電圧が3.3Vだったが、1998年3月には電圧を1.5Vに落とすとともに4x(32bit/133MHz DDR)モードが追加されたAGP 2.0が登場し、転送速度は1067MB/secに。2002年8月には電源電圧を0.8Vに下げ、8x(32bit/266MHz DDR)モードが追加されたAGP 3.0がリリースされ、転送速度は2133MB/secまで引き上げられた。
さらに、消費電力が増える一方のビデオカードに対応するため、電力供給ピンを追加したAGP Pro仕様も後追いの形で追加されている。
ただ、ではAGPの意味があったか? と言われると、実はほとんどなかった。AGP 1.0の頃と言えば、例えば1997年に登場したNVIDIAのRIVA 128は、オンボードで128bit/100MHzのSGRAMを搭載、メモリ帯域は1600MB/secであり、AGP 2xの3倍高速で、メモリ容量も4MBだったから、メインメモリの1/4程度は確保されていた。AGP 3.0の頃だとATIのRADEON 9700 Pro(2002年9月発表)が256bit/325MHz DDR-SDRAMだから帯域は20GB/secほど。メモリ容量も128MBあった。
要するにAGPの速度は、いつの時代においてもビデオカードのオンボードメモリの数分の1の帯域しかなく、またメモリ容量もわざわざメインメモリを使う必要がない程度に充実していた訳だ。
こうなると、テクスチャをAGP経由で取り込む動作は深刻にゲームの進行の妨げになる(実際猛烈にフレームレートが落ちる)ため、ゲームデベロッパーは何とかしてオンボードのメモリ内に必要なテクスチャを押し込む(か、ゲームシーンの切り替え時期に必要なテクスチャのロードを行うことにして、ゲーム中はロードをしない)よう工夫することになり、結局AGPのメリットはほとんど生かされなかったとして良い。それもあって、次のPCI Expressが出ると、急速にAGPは衰退していくことになった。
余談になるが、AGP Implementation Forumのサイトは2006年頃までは存在していたが、その後ドメインが売られたようで、なぜかロシア語のAGPのサイトになったり、妊娠と性病のサイトになったり、フランス語の謎の情報サイトになったりと変遷を続けており、直近ではドメインの登録がなくなっている。
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“PC”あるいは“Personal Computer”と呼ばれるもの、その変遷を辿る
RISCの歴史、Apple Siliconの歩みを語ってきた大原雄介さんのコンピュータ歴史連載、テーマはズバリ「PC」だ。
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