“同人ハード”が「CES」で賞を取るまで メタバース住人が愛用する「HaritoraX」誕生の軌跡(2/3 ページ)
夜なべして作った初代「Haritora」
HaritoraXの開発者、izm氏は2018年からVRChatに参加しており、いわば“メタバース原住民”でもある。同氏は、Haritoraの開発動機を「積もり積もったものがあって」と振り返る。
VRChatがリリースされた最初の頃は、VR向けのモーション・トラッキングデバイスは選択肢が限られていた。業務用のモーションキャプチャーデバイスは検知精度が高いものの、安くても10万円以上と高額なものが多い。「HTC Vive」のような特定の空間内をトラッキングするVRデバイスもあるが、光学的に体の動きを読み取るため、センサーを搭載したベースステーションを部屋に複数設置する必要があるなど、スペースに限りのある日本の住宅事情になかなかそぐわない。
izm氏は当時、大手Vtuberの配信支援に携わっていたが、セットアップにスペースや専門知識が必要なベースステーション方式に課題感を持っていたという。特にスペースの問題は切実で、米Microsoftの「Kinect」を使って、力技で足のモーションデータを取ろうとする人もいたようだ。
また、光学式の場合、体に付けたトラッカーがセンサーの死角に入ってしまう欠点があり、結果、VR内のアバターが人間ではありえない動きをする現象が起こってしまう(VRChatユーザーは『トラッカーが飛んだ』と呼ぶようだ)。このため、精度は多少低くとも、IMU(ジャイロセンサーなどを使った慣性計測方式)を使ったトラッカーに需要があった。
そうした発想から作られたのがHaritoraだ。IMU方式を採用し、ケーブルのコネクターは有線LANで使われているRJ45。BluetoothでPCと接続することでコストを抑えた。ハードウェアは3Dプリンタで制作し、回路設計やツールのUIデザイン、認証システムは知人のエンジニアやデザイナーに制作を依頼。ハードの組み立てやソフトウェアのコーディングはizm氏自身で行ったという。「友達同士でやってる同人サークルみたいだった」(izm氏)と当時を振り返る。
構想から約1年、初代Haritoraを2020年7月に受注開始すると、たちまち想像を超える反響があったという。izm氏のもとには大量の注文が届き、自宅に3Dプリンタを6台設置してフル稼働で生産。プリンタのフィラメントを交換しながら「毎日30分の睡眠を何回か取る」生活スタイルを送ることになる。当初はハンダ付けや検品も一人で行っていたようで、Haritoraの初代機を見せてもらうと、電子部品の足の切り方に手作り感が垣間見えた。
その後、スロベニアの3Dプリント工場にアウトソーシングしたり、組立スタッフを動員するなど仕事量を分散していったが、結果的に体調を崩してしまう。一部発送に使っていた最寄りのコンビニオーナーから「何やってる方なんですか?」と尋ねられるほどだったという。
2人の出会いは2020年のクリスマスイブ
同人ハードとしては異例の大ヒットにあえいでいたところ、量産化を支援したのがShiftallの岩佐氏だった。
Shiftallはパナソニックという大企業の完全子会社でありながら、独立したスタートアップ企業でもあるというユニークな企業だ。ハードウェアスタートアップの「Cerevo」を源流としており、大企業の技術と調達力を武器に、独自の製品を開発・販売している。
元Cerevo代表取締役でもあり、Shiftallの指揮を執る岩佐氏は、当初VRにそれほど関心を寄せていなかったものの、コロナ禍をきっかけに、メタバースの可能性に気付く。純粋なテクノロジーへの興味からHMDに触れ、ゲームやVRChatなどを体験するうちに、VRの世界に自然とのめり込んでいった。
さらに、次々とロックダウンが実施された20年4~5月にかけて、世界中でHMDの在庫が姿を消したという。「(メタバースの)最初のドライブをかけたのはおそらくCOVID-19」と岩佐氏は分析する。
izm氏はHaritoraを発売後、バグチェックのためにClusterを訪れていた。そこで同社のとみね氏が尋ねる形でHaritora製造の悩みを打ち明けたところ、紹介されたのが岩佐氏だったという。とみね氏と岩佐氏は古くからの知り合いで、一緒にサバゲーをする仲。かくして2人は、2020年のクリスマスイブにVRChat内で初顔合わせをし、Haritoraの量産にフェーズを進めることになる。
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