小寺信良のIT大作戦
「LUMIX S9」炎上を、宣伝広告の裏側から考える 見えてきた世間との認識の“ズレ”(2/2 ページ)
これからどうなるのか
実際パナソニックに限らず、他のカメラやレンズメーカーでも、商品説明の画像にストックフォトや別カメラ・別レンズで撮影したものを使っている例は、これまでも相当あると思う。UI画面なんかはあきらかにはめ込み合成だし、なんならUI自体もキャプチャーではなく、Illustratorなどで「描いた」だろうと思われるものもたくさんある。
パナソニックに非があるとするならば、まあストックフォトはないかな、というところである。他社の例では、サンプル写真は自社でオリジナルのものをあらかじめ作って持っている、というケースが多いようだ。クリエイター相手にクリエイティブ商品を売るなら、そこはオリジナルで頑張らないといけなかったところである。まあ実機の絵でないということが罪だというのであれば、罪の重さは変わらないのだが。
ただそういうものを全部洗い出して、メーカーの責任を問うと詰め寄るのもどうなのかなと思う。機能説明も全て実機画像でなければ許されないという風潮になれば、発売前の公式サイトは、プレスリリースみたいなテキストと製品外観写真だけの1枚ペラみたいなものになりかねない。あるいは製品発売が量産2カ月後になるとか。メーカーにとっても消費者にとっても、それはWin-WinではなくLose-Loseだろう。
現在LUMIX S9のサイトには、すべての写真に対して出展を明記したり、「この写真はLUMIX S9で撮影されたものではありません。画像・イラストは効果を説明するためのイメージです」といった注釈が付けられている。
炎上への対応としては今はこうするしかないとは思うが、炎上を知らない人や、数年後に事情が知らない人がこのサイトを見たら、なぜ執拗に別のカメラで撮影していることをアピールしているのか、混乱するのではないだろうか。注釈が多すぎて、少なくともサイト本来の目的である、「情報がスッと入ってくる」状態ではないように思う。
実機で撮影していない写真で機能を説明するのは、景品表示法における「優良誤認」に当たるのではないかという意見もあるようだ。優良誤認とは、消費者庁の説明によれば、「商品・サービスの品質を、実際よりも優れていると偽って宣伝したり、競争業者が販売する商品・サービスよりも特に優れているわけではないのに、あたかも優れているかのように偽って宣伝する行為」とある。
ただ、この実証は難しいだろう。説明写真の状況がS9では絶対に撮れないかというと、おそらくそこまでのレベル差があるとは思えない。一般的に広告宣伝においては、制作時に優良誤認に当たらないかの確認は常に厳しく行われており、メーカー側でも公開前にかなり厳しくチェックしたはずだ。
もともとのサイトでは、サイトの一番下に「画像・イラストは効果を説明するためのイメージです」との注記があり、消費者をだます意図はなかったことは分かるが、目立たないところに小さく書かれていただけで分かりにくかったのも問題があった。
今後同様のページに関しては、サイトの上の方にこの注記をやや大きめのフォントで掲示しておけばいいのではないだろうか。またサイトを見る消費者の側も、ああそういう事情なのね、ということがなんとなく広まって、世の中スムーズに行って欲しいなぁ、というのが筆者の思いである。
一方でS9炎上の遠因は、そこではないという意見もある。パナソニックでは5月半ばに、世界中のカメラ系YouTuberを集めて発表会を行っているが、その際にS9を無償で参加者に提供したようである。「製品提供:Panasonic」の表記があることで、景品表示法的にも問題はないのだが、これに呼ばれなかったYouTuberは不満だろう。それが原因で反S9、反パナソニックという態度になった者は出てくる。そうした風潮に押されてか、S9に対して好意的ではないYouTube動画も多く登場したようだ。
多くのブロガーやYouTuberは、メディア人としてのトレーニングを受けたことがないことから、広告宣伝に利用するのはリスクが大きい。パナソニックも招待する人は慎重に選んだのだろうが、招待されなかった側のコントロールはできない。これはこれで、マーケティングの失敗であろう。
今回の騒動により、LUMIX S9は発売前からだいぶケチが付いてしまったといえる。今後さまざまな実機レビューが出てくると思うが、広告・マーケティングの失敗を、カメラへの評価そのもので責任を取らせるのは違うだろう。カメラとしての中立なレビューに期待したいところである。
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小寺信良のIT大作戦
ベテランのテクノロジーライターである小寺信良さんがIT分野全般にわたって考察する。
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