小寺信良のIT大作戦
「FIRE」する人が増えたら社会はどうなる? 労働力はAIでまかなえるのか(3/4 ページ)
FIREで不足する労働力はどう補う?
23年以降、AIが広く社会に浸透し始めた事で、一定の労働力となり得るという見方がされるようになってきた。一方で人間の仕事が奪われるといった懸念もなくならないわけだが、仕事というのは人間の社会的責任において判断することが求められるものであることから、完全にAIが取って代わるわけではないというのが今のところの平均的な意見だろう。
すなわち、人間には耐えられない単純作業の繰り返しや、非人間的な労働環境下での作業はAIなりAI搭載マシンに取って代わることはあり得るが、その成果を受け取って評価に載せるのは人間の仕事、つまりAI管理が人間の仕事になる、というわけである。
この考え方は理にかなっていると思うが、FIREによる労働力不足にAIで対応できるかという視点で見ると、そこは無理と考えるべきだろう。もともとFIRE可能な人は、AIで代替可能な単純作業に従事している層ではなく、企業管理職、不動産経営者、あるいはヒット作品を持つ芸術家や芸能人といった、ハイリスクな仕事をしてきた層である。その人達の個人の能力や、そういう星の下に生まれた的な資質に依存している仕事は、そもそもAIで代替可能だとは考えられていない。
一方で、今後労働力が余る年代がある。60歳や65歳で定年を迎えたものの、老後を労働せずに暮らせるほどの資産が築けなかった層である。あるいは55歳前後で役職定年を迎えて大幅に給与が下がり、転職したがっている層も加えてもいいだろう。そういう人達は、若いときと同じようなスピード感で働けるわけではなく、健康面で問題を抱えているケースもあり、無理はさせられないが、FIREで抜けた穴を埋める人材となり得る。
だがこのロジックには、大きな問題がある。定年しても働かなければならない人達の大半は、結婚して子供を作り、苦労しながら社会に送り出したために自分の資産を築けなかったとも言える層である。その人達が、独身で金を貯めて早期退職し、あとは好きなことをやって生きていける人達に変わって働き続けるというわけだ。
若い人の瞳には、どちらが魅力的な人生に映るだろうか。結婚しない方が全然楽じゃないかということがわかってしまったら、誰が今後高いハードルを乗り越えて恋愛して結婚して子孫を残そうとするだろうか。
つまりFIREが可能な世の中になれば、少子化は従来のカーブよりもより急激に進行する可能性が高くなる。いくらAIで労働力をカバーしようとしても、国の人数が減るということが避けられなければ、極端な話、あと100年もしないうちに国家としての消滅や解体、他国との併合といった悲観的な未来も視野に入れざるを得ない。この懸念は、インフレの比ではない。
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小寺信良のIT大作戦
ベテランのテクノロジーライターである小寺信良さんがIT分野全般にわたって考察する。
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