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数学界を騒がせた“あの図形”を実際に作製→新しい光学素材の卵に 東大などがNature系列誌で発表

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2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2

 東京大学や東京科学大学、NTTに所属する研究者らがNature Communicationsで発表した論文「Chiral Diffraction from Aperiodic Monotile Structure」は、長年数学界で未解決だった難問から生まれた非周期的なタイルの並び方を実際のナノ構造として作製し、そこに光を当てて特異な現象を観測することに世界で初めて成功した研究報告だ。

1種類のハット型タイルだけで敷き詰めた非周期タイリング(左)、同じ配置のナノ構造に白色レーザーを当てて得られた風車状のカイラルな光回折像(右)

 研究の着想元は、たった1種類の形だけで隙間なく平面を埋め尽くすことができるが、全体で見ると絶対に同じ模様の繰り返しにならない(非周期的になる)という特殊なタイルの存在を問う、通称「アインシュタイン問題」だ。

 2023年に「ハット型タイル」がこの条件を満たす解として発見され、数学界に衝撃を与えた。しかし、この数学的な発見が、現実の物理的な世界でどのような現象を引き起こすのかは分かっていなかった。

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 研究チームは、このハット型タイルの並び方を基に、薄い膜の上にナノサイズの極小の穴を精密に配置した人工構造を作製した。

 具体的には、タイル1枚ごとの重心に点を置くことで、3回回転対称性(120度回しても同じ形になる性質)を持つ一方で、鏡映対称性(左右を反転しても一致する性質)はもたない「モノタイル準格子」を設計した。

(A)2023年に発見されたハット型モノタイル。(B)数学的に定義されるその重心。(C)ハット型タイルによる非周期タイリング。(D)各タイルの重心に点を置いて得られるモノタイル準格子

 そのうえでNTTの微細加工技術を使い、厚さ350nm(ナノメートル、10億分の1m)の窒化シリコン薄膜に、半導体製造と同じ「電子線リソグラフィ」などの手法で半径100nmの円孔をこの配置どおりに並べた大面積の構造を作製した。

 この板にレーザー光を当てると、光は特定の方向に強く曲がって進み、スクリーン上に点の模様(回折像)を描く。緑色の単色レーザーを当てたところ、繰り返しのない構造なのに、模様はぼやけずくっきりした点(ブラッグピーク)として現れた。しかも光を当てる位置をずらしても、ピークの位置はほとんど変わらない。これは、規則的な繰り返しはなくても、全体としてはきちんと秩序だった並び(準結晶的な長距離秩序)になっている証拠だという。

 さらに、回折像の形そのものも左右対称ではなく、風車のように片方へ回っていた。これは白色レーザー、緑色の単色レーザーのいずれを当てた場合にも確認されている。タイルの並びを鏡に映したように反転させると、風車の回る向きも逆になる。構造が鏡像と重ならない性質(カイラル)をもつために、光の模様までもがその性質を映し出したことになる。

(A)作製したモノタイル準格子構造の顕微鏡写真。(B)白色レーザーによる風車状の回折像。(C)緑色単色レーザーで観測されたブラッグピーク。(D)右回りと左回りの円偏光を当てたときの回折強度の差

 光そのものにも右回り・左回りがある。円偏光と呼ばれる、電場の向きがねじれながら進む光だ。この右回りと左回りを当て分けたところ、模様の点の明るさが違って現れた。そして構造を鏡像にすると、明るく光る点の分布も入れ替わった。反転対称性や鏡映対称性を持つ従来型の準周期構造では、こうした違いは現れにくい。鏡像と重ならないモノタイル準格子だからこそ生じる、新しい光学現象といえる。

 数学上の存在にとどまっていた非周期モノタイルが、ナノ構造として作り込むことで実験可能な物理系となり、これまでにない反応を生み出すことが示された。今後、この構造をメタサーフェス(自然界にない振る舞いを見せる人工物質の一種)やフォトニック結晶に取り入れ、新しい応用を探求していきたいとしている。

Source: Moritake, Y., Takiguchi, M., Aihara, T. et al. Chiral diffraction from aperiodic monotile structure. Nat Commun 17, 6085 (2026). https://doi.org/10.1038/s41467-026-75023-7

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山下(Seamless)
山下(Seamless)

2014年から幅広い分野の研究論文をピックアップして解説しているメディア「Seamless」(シームレス)を主宰している。

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