日本は「月面輸送」を産業にできるか? 三菱重工と組んだispace、国産ロケットを選んだ3つの理由(1/3 ページ)

 月面探査企業ispaceは7月29日、2028年に予定する新型月着陸機「ULTRA」の打ち上げに、三菱重工業の「H3」ロケットを使用する契約を結んだ。国産ロケットと国産ランダー(月面着陸機)の組み合わせが実現する試みとあって目を奪われるが、この契約の意味は“日の丸月探査”の実現にとどまらない。

 実は今回の契約、米中競争を背景に政府主導の月面需要が拡大するなか、日本企業は海外の探査計画に機器を納めるだけなのか、それとも月へ運ぶサービス自体を産業にできるのか──その分岐点でもある。今般の月面開発市場の動向を踏まえ、ispaceの真意をひも解いてみよう。

三菱重工の五十嵐巌宇宙事業部長(左)、ispace 袴田武史CEO(右) 撮影:小林伸

ispace&三菱重工が契約、その中身は

 まず、今回の契約について背景を整理する。ispaceはこれまで、2回の月面着陸機(ランダー)を米SpaceXのファルコン9ロケットで打上げた経験を持つ。28年に計画しているのは過去の経験の上に開発された、より大型のランダー「ULTRA」をベースにした最初の着陸ミッション「M3」だ。

 これに伴い、ispaceはULTRAを月近傍へと輸送する手段として、日本の基幹ロケットH3による打ち上げ輸送サービスを契約した。開発資金には経産省の事業支援制度「SBIR」を利用すると共に、初めて国産ロケットと国産ランダーを組み合わせた打ち上げ輸送となる。

 ULTRAランダーは4つの着陸脚とエンジンを備えた機体で、本体の質量が約1t、ペイロード(貨物)を数百kg程度搭載できるという。現在はエンジンを含む基本設計の審査や、H3との適合性チェックが完了した段階で、これからフライト機体の開発に進む予定だ。H3側は、主エンジン2基、固体ロケットブースター2本、ショートフェアリングを使用する「H3-22S」形態を使用する。

 さらにランダーには、東京科学大学が宇宙戦略基金の技術開発テーマ「テラヘルツ波リモートセンシング衛星による月地下浅部の資源探査」に基づいて開発する観測機器も搭載される見込みだ。

 要するに、SBIRから宇宙戦略基金、官民投資ロードマップまで、政府系資金が足並みをそろえて民間による月探査をバックアップする中で実現した、国内企業・機関チームによる初のミッションということになる。あと2年での実現は「地球から月までの輸送を海外に依存することなく、日本の民間企業の力で自立可能な体制を作るシステムとなる」と袴田武史CEOは展望する。

 共同記者発表では、H3が国産という点だけで選ばれたのではなく、H3ロケットが旧型の「H-IIA」から積み上げてきた信頼性、打ち上げ環境、搭載柔軟性を総合評価したことが繰り返し語られた。

 ispaceの氏家亮CTOは、ランダーならではの「着陸脚」という存在がロケットへの搭載性の条件を左右するといい、そうした部分への調整能力に優れていたことが判断材料になったと話す。過去2回搭載されたファルコン9ロケットは振動環境の面では厳しかったこともあり、より環境条件のよいH3ならば、ランダーを軽量化できるという具体的なメリットもある。

 こうしたロケットの性能に加え、(1)円安でドル建て打ち上げの負担が拡大したこと、(2)日本国内で宇宙機を製造し、同じ国内の種子島宇宙センターに輸送する負担が、米国への輸送に比べて時間・コスト面で大幅に小さいこと、(3)ispace側の要求に対し、三菱重工側が調整対応の柔軟さを持っていたこと──などが判断材料になったという。

ULTRAランダーと袴田CEO(左)、氏家亮CTO(右)。撮影:小林伸

激動の月面探査 NASAの調達事情に変化

 ただ、ispaceにはNASAなど米国による宇宙探査とつながりがすでにある。なぜこのタイミングで日本企業との協調を強めるのか。背景にはNASAによる調達環境の変化がある。

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