「データセンターの排熱で温泉を作ろう」が難しい3つの理由 本職のDC技術者にガチで考えてもらった

 AI需要に伴い注目度が高まるデータセンター。昨今は環境問題の表出に伴い電力消費や排熱なども問題視されているが、こうした議論のたびに「排熱でお湯を沸かして温泉にすればいいのでは」といったアイデアが注目を集めるのをご存じだろうか。

 実は、データセンターの排熱を使った足湯は岐阜県に存在しており、英国では屋内プールの保温にデータセンターの熱を使った例も報じられている。荒唐無稽な話というわけでもないようだが、"データセンター温泉"と言われて考える本格的な温浴施設の例は、記者が知る限り国内にはまだない。

ミライコミュニケーションネットワークの"DC足湯”(同社公式サイトから引用)

 排熱を有効活用して温浴施設を運用すれば、データセンター事業者は環境に配慮しつつ追加の収益を得られる。近隣住民も施設を利用できる──もし事業として成立するなら三方良しのはずだが、いまだ実例が見られないのはなぜか。本職の方に聞いてみよう……ということで、データセンター事業を手掛けるブロードバンドタワーの大塚舜佑さん(データセンター技術本部)に見解を尋ねてみた。

“データセンター温泉”が成立しない3つの理由

 そもそも、サーバの排熱で水を温めることは可能なのか。大塚さんによれば「ヒートポンプなど、補助設備があれば技術的には可能」といい、実際に"データセンター温泉"などが検討された事例も見聞きしたことがあると話す。しかし大別して3つの問題があり、費用対効果の面で成立しないという。

 1つ目は排熱の温度だ。「データセンターの排熱は量が膨大である一方で、一般的なサーバ排熱の温度自体は30~40度程度。今後は高負荷機器によって排熱の温度が上がるにしても、そのままでは温かいお湯にすらならず、日本で好まれるような40度以上のお湯にするにはヒートポンプなどで加熱する必要がある」と大塚さん。

 仮にヒートポンプで加熱するなら、その分光熱費もかかる。そもそも、加熱のためには配管設備が必要で、その初期費用も必要になり、出費がかさむ。

 2つ目はデータセンターと温泉施設で求められる立地条件が大きく異なる点だ。人が訪ねやすい・集まりやすいことが求められる温浴施設に対し、データセンターは不動産コストの低さや、通信の接続性や大容量受電、耐災害性が求められることもあり、それぞれの理想的な条件が両立しにくい。

 しかも、温水は輸送距離が長くなるほど熱損失と配管設置コストが大きくなるため、データセンターの排熱を利用するなら両者は隣接させる必要がある。この矛盾が“データセンター温泉”を成立しにくくしているという。

 3つ目はセキュリティだ。データセンターは企業などのITインフラを担い、重要な情報を扱う。しかし温浴施設を併設することで不特定多数の人間が入りやすくなると、不審者侵入リスクが高まる。

 リスクを避けようと思うと別棟の建設が必要になり、入退館管理、監視カメラの厳格な運用も求められる。それでも給湯・排熱制御システムなどを介して温泉施設側のネットワークからデータセンターの管理基盤へ侵入されるリスクは避けられず、ネットワークの完全な分離など対策が必要だ。結果、得られる利益とかかる工数が見合わなくなっていく。

 以上の問題から「データセンター×温泉だけでは事業としての採算は厳しい」と大塚さんは結論付ける。Xでたびたび話題になる“データセンター温泉”論だが、現状は実現が難しそうだ。

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