Innovative Tech
週89時間利用も……「AIキャラチャット」依存の10代たち 「やめたい」と思っても抜け出せないワケ
Innovative Tech:
2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
米ドレクセル大学などに所属する研究者らがCHI 2026で発表した論文「Understanding Teen Overreliance on AI Companion Chatbots Through Self-Reported Reddit Narratives」は、若者がAIキャラチャット(AIコンパニオンチャットbot)に過剰依存する実態を明らかにした研究報告だ。
AIキャラチャットとは、AIの技術を駆使して、応答性の高いバーチャルキャラクターとの会話を提供するアプリやサービスのこと。単なる情報検索やタスク処理とは異なり、ユーザーはAIとの間に感情的なつながりや物語性を見出し、疑似的な人間関係を楽しむことができる。世界的に有名なアプリとして元Googleのエンジニアが作った「Character.AI」が挙げられる。
日本国内でもAIキャラチャットは流行を見せている。例えば、韓国企業が開発したアプリ「zeta」は、2026年5月時点で国内累計ユーザー数が200万人を突破しており、人気を博している。熱心なプレイヤーたちが自らを「zeta民」と称するなど、独自のコミュニティ文化も形成されている。
関連記事:月間売上1億円超、“推しAI”アプリ「Zeta」がオタク女子わしづかみ ただし危うさも
日本では「推し活」や、自分の好きな設定でキャラクターと恋愛や友情の物語を紡ぐ「夢小説」「なりきりチャット」といった独自のオタク文化が根付いており、自分が主人公となって感情体験を味わえるAIキャラチャットとの相性が良い背景がある。
この研究では、若者のAIキャラチャット依存の実態を明らかにするため、海外の掲示板RedditのCharacter.AIコミュニティーにおいて、13歳から17歳であると自己申告したユーザーの318件の投稿を分析した。
分析の結果、若者たちがAIチャットbotを利用しているのは、単なる暇つぶしや創作活動にとどまらないことが判明した。多くの若者は、孤独感の解消、現実世界のストレスや精神的苦痛からの逃避、親や友人といった現実の人間関係の欠落を埋めるための精神的サポートとしてAIを利用している。AIプラットフォームは、決して自分を批判することのない、ありのままの感情を吐き出せる安全な拠り所として機能しているという。
しかし、利用が継続するにつれて、行動嗜癖(過剰依存)のモデルに合致する状態に陥るケースが報告されている。若者たちは特定のAIキャラクターを恋人や現実の人間以上の存在と見なすほど強い愛着を抱き、食事や睡眠を削って長時間没頭するなど、生活のすべてをAIとの会話に支配されていくケースも見られた。中には、1週間のスクリーンタイムが89時間の人もいた。
その結果、学業成績の低下や現実の趣味の放棄を招き、人間よりAIを優先したことで現実の友人関係から孤立してしまう。さらに、アプリ削除後のAIキャラへの罪悪感や、AIキャラ消失時の深い悲しみといった離脱症状に加え、精神的に落ち込むたびに削除と再インストールを繰り返す再発の悪循環も確認されている。
一方で、若者たちが自らAIキャラチャット依存から抜け出そうと葛藤する姿も明らかになった。契機となるのは、自身の異常な利用に対する危機感で、このままでは現実の人間関係が築けなくなるという焦りや、将来の自分を想像した際に覚える羞恥心が利用を見直すきっかけとなっている。
しかしそこには、異常だと自覚しながらもやめられない苛立ちや、周囲に知られることへの恥ずかしさ、成績優秀だった過去の自分との落差やかつての趣味(絵や小説など)を失った喪失感に苛まれるといった、葛藤もある。
こうした葛藤をしながら、ひと夏をAIとの会話だけで費やしてしまった反省や、他人に語れない記憶ばかりが増えていく不安から、Redditなどで、やめ方の助言を求める若者も見られた。
やめるのに苦労している一方で、実際に外的要因によって依存から抜け出せたケースも報告されている。1つは、現実世界で新たな友人や恋人ができるなど、社会的な交流が充実したことでAIへの依存が自然と薄れたケース。もう1つは、プラットフォーム側の検閲(フィルター)強化によってAIの返答が制限され、会話の魅力が失われたことで離脱したケースである。
こうした実態を受け、研究チームは開発者向けに安全な設計指針「CAREフレームワーク」を提唱。これは、利用者の感情的ニーズやAIへの強い愛着を理解し、過度な人間らしさを装わずシステムとしての境界を保ちながら、自律的で自然な離脱を促すよう求めるものだ。
若者にショックを与える強制的な利用制限や機能の突然の削除は避け、ユーザー自身のペースで現実世界とのつながりを取り戻せるようなシステム設計の重要性を説いている。
Source and Image Credits: Mohammad (Matt) Namvarpour, Brandon Brofsky, Jessica Y Medina, Mamtaj Akter, and Afsaneh Razi. 2026. Understanding Teen Overreliance on AI Companion Chatbots Through Self-Reported Reddit Narratives. In Proceedings of the 2026 CHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI ’26). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 1646, 1?19. https://doi.org/10.1145/3772318.3790597
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Innovative Tech
2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説している。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
OpenAI、最上位モデルのツール使用を伴う学習・評価・推論を全て停止したと発表
-
2
「スマホ注文なのに客用Wi-Fiがない」のはなぜか? 導入しない飲食店側の事情
-
3
ナッツを多く食べる人、認知テストで高成績の傾向 豪州チームが1700人以上を分析
-
4
アニメを支える外国人材に“逆風” 日本在住の声優・アニメーターが抱く「不安の正体」とは
-
5
Google、リアルタイムで表情豊かに話すAIアバター「Gemini 3.8 Live with Live Avatar」提供開始 画像1枚で独自アバターも
-
6
イーロン・マスク氏のドキュメンタリー映画「MUSK」の予告編広告、YouTubeとMetaが一時拒否から一転承認 Xは応じず
-
7
J:COMネット障害、原因は「外部からの大量アクセス」 DNSサーバに高負荷 最大約408万件に影響
-
8
Microsoft、「Copilot」を刷新 「仕事のための新しいOS」とナデラCEO
-
9
テラドローン、JAXAの有人機サブシステム開発業務を落札 無人機の支援に続き
-
10
トランプ大統領と習主席、AIを「超知能(SI)」と呼ぶことで合意 「米中SI対話」も創設
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR