「現場任せのAI活用」が失敗するこれだけの理由 経営層がすべき“頭の中”の言語化とは(3/4 ページ)

トップダウンで決めるべきこと

 経営層が何を求めてAI導入に踏み切ったのかは、経営層の頭の中にしかありません。何をどうするのがゴールなのかは、経営層が言語化して伝えるしかない性質のものです。

 では、経営層はどのようにAI活用を浸透させるべきなのでしょうか。進め方としては、OKR(Objectives and Key Results)のような形が現実的だと考えています。トップが設定したゴールに対し、各部門が何をすればそのゴールが達成できるのかを考えて部門目標を設定する。さらに各チームが、自分たちが何をすれば部門目標が達成されるのかを言語化する。この連鎖があって初めて、現場の工夫が全社の数字につながります。

 ゴールの粒度については、「IRに書けるか」を基準にするという整理が参考になるでしょう。その上で筆者は、月額利用料、削減できる作業時間、追加で得られる利益を試算し、来期予想に載せられるかを判断基準にするとよいと考えています。「Geminiを導入しました」という報告では、投資家にも社内にも説明がつきません。

 そして、経営層が言語化するためには、経営層自らが積極的にAIを用いた業務をしなければなりません。AIについて漠然としたイメージを持ったまま、雰囲気だけでげきを飛ばしても、ゴールはさっぱり伝わりません。前述の調査で経営層のAI利用と方針の有無が強く連動していたのは、この言語化能力の差が表れたものだと考えると腑に落ちます。

 配置の設計も経営層の領域です。米Salesforceは、AI活用を個人の効率化で終わらせないために、再設計(Redesign)、リスキル(Reskill)、再配置(Redeploy)、役割の再調整(Rebalance)という四つを組み合わせる「4R」を提案しています。このうち再配置は、明確に部門をまたぐ意思決定です。

 とはいえ、経営層が自発的にここまで言語化してくれる組織ばかりではありません。その場合に情シスや推進担当ができることは、ゴールを代わりに決めることではなく、経営層の意図を分解して差し戻すことだと考えています。

 「AIで生産性を上げたい」という指示に対して、それはリリース速度の話なのか、人員計画の話なのか、外注費の話なのかを確認する。確認の形をとった提案になりますが、経営層の側も自分が何を求めているのかを言語化できていないことが多いため、この往復には意味があります。

 この往復を経ずに現場へそのまま降ろすと、曖昧なKPIが曖昧なまま各チームに配られ、半年後に誰も効果を説明できない状態になります。推進担当が渡すべきなのはツールの使い方ではなく、上から降りてきた言葉を業務の単位まで翻訳したものです。

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この記事の著者

久松 剛
久松 剛

合同会社エンジニアリングマネージメント社長。博士(慶應SFC、IT)。IT研究者から、ベンチャー企業・上場企業3社でのITエンジニア・部長職を経て独立。大手からスタートアップに至るまで常時複数社でITエンジニア新卒・中途採用や育成、研修、評価給与制度作成、組織再構築、広報、AX・DX・FDEチーム組成などを幅広く支援。

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